暁 〜小説投稿サイト〜
クリムゾン・エンゼル ~東京編~
プロローグ 〜洋館にて〜
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です!お願いします」
街頭で貧しい国のために募金を呼びかけるように、胸に手をあて演技くさい叫びであった。しかし、これが彼女の本心である。
だが、本心であろうとなんであろうと、老人の心は簡単には揺らがない。
「うるさい!私は、私は…!」
老人は前方を向き直し、その足を進めようとする。廊下を抜ければ走って逃げる事ができる。もう老人の足腰は悲鳴を上げていたが、走らなければいけない時というのが、人生の終盤になってもあるものだ。
「三世院博士!」
スーツの女は安物のローファーをカツカツと鳴らして、廊下を進み始める――が。
「うひゃぁああっ!」
3歩目を踏み出したところで、腐食の進んだ部分を踏みしめてしまったのか、バキッと音を立てて抜け落ちた廊下の穴に吸い込まれていく。
大きな物音とともに「いった〜い…」という情けない声が聞こえてくるが、老人にはそれに安堵している暇もなく、そのまま歩き続けた。

「もうっ、なんなのこれ…。なんで廊下が木なのよ!」
誰に対してか、怒りを一人叫ぶ女は、スーツについた土を払いながら上を見上げる。
開いた穴は、目と鼻の先である。そこから出ることもできるが、何せちょっと踏んだ程度で壊れる代物である。うかつに体重を掛ければまた同じことの繰り返しだろう。ここは慎重にいかねばならない。
と、どうしようかと女が考えていると、不意に天井からの光が何者かの影によりさえぎられた。
「何してんの、お前…」
逆光で顔がよく見えないものの、おそらく彼女の上司だと思われる。
「あ、先輩。すいません、落ちちゃったんです」
「へぇ」
だが、先輩の男は興味なさげに相打ちを打つだけで、女を助けようとする気配がない。むしろ、そこから早々と去ろうとしてるようにも見えた。
「えっ、先輩!?助けてくれないんですかぁ!?」
「あぁ。あいにく最優先事項は、あのボケ老人だ。お前にかまってる暇、ナシ!」
きっぱりと言い捨てて、先輩の男はそこから去って行った。彼に対する恨みに唇をかみしめながら、女は絶対に一人で戻ってやる!と一人闘志を燃やしていた。

廊下を抜けた老人は、玄関へと一目散に走っていた。
洋館の入り口であるホールへとたどり着いた老人は、左右の壁に掛けられている絵画の住人達に見守られながら扉に向かってかけていく。時折後ろを気にしながら、彼はその先の扉をまっすぐ見据えていた。
だが、その行く手を阻むように、扉の前に大きな黒い影が急降下してきた。
「ひぃっ!」
落ちてきたそれは、老人の愛用していたピアノである。子供の頃から使っている思い出の品であるが、それが大きな音を立て砕けた事よりも、このままでは扉をあける事ができず、逃げ道が塞がれた事が老人にとって何よりショックだった。
失意に膝をつく老人の背後に、迫る影があった。
「そこま
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