暁 〜小説投稿サイト〜
至誠一貫
第二部
第三章 〜群雄割拠〜
百九 〜エン州、再び〜
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る事もない。

「向こうには紫雲(劉曄)がいたな」
「ええ。その点、私達は疾風(徐晃)以下、諜報に向く者が多く出払っていますから」

 あり得る話だろう。

「恋。よもやとは思うが、いざという時は……頼むぞ」
「……大丈夫。兄ぃも禀も、恋が守るから」

 最悪の事態は想定しておかねばならぬが、華琳がこのような事態に謀る事もあるまい。
 この軍勢に、悪意を抱く者が混じっておらねばの話ではあるが。

「土方様。着きますぞ」

 兵の言葉通り、小舟は接岸しようとしていた。
 流琉が、兵を率いて近づいてくる。

「土方さま!」

 兵もそうだが、皆が徒手。
 我らに害意のない事を示す為であろう。

「流琉か。久しいな」
「はいっ! お怪我はありませんか?」
「大事ない」

 私の言葉に、流琉は心底ホッとしたように微笑んだ。
 兵が投げた艫綱を、華琳の兵が受け取る。
 そして、数日ぶりに私は大地を踏みしめた。

「禀さんもお久しぶりです」
「ええ、貴女も元気そうですね。流琉」
「はい。あ、こちらの方は?」

 そうか、流琉は恋と面識がないのであったな。

「……恋は、呂布」
「あなたがあの飛将軍ですか。初めまして、私典韋って言います」
「……ん」

 恋の反応に、流琉は不安げに私を見た。

「あの。私、何か失礼な事をしてしまったのでしょうか?」
「いや、恋は普段からこの通りだ。気にする事はない」
「は、はい。それならばいいのですが」

 そこに、華琳と荀攸が近寄ってきた。

「歳三、旧交を温めるのは後になさい。今はそれどころではないでしょう?」
「華琳か。シ水関以来だな」
「ええ。どうやら、五体満足で再開出来たようで何よりだわ」

 隣で、荀攸が礼を取る。

「間一髪であったがな。どうにか生き存えたようだ」
「ふふっ、こんなところで死んで貰っては困るわよ歳三。貴方は私が跪かせると決めているのだから」
「ふっ、変わらぬな」
「私が私である所以ですもの。ところで、私が此所にいる理由は知りたいと思わない?」

 不敵に笑みを浮かべる華琳。

「無論聞かせて貰いたいところだな」
「素直ね。少しぐらいなら駆け引きをしてくれてもいいのだけれど?」
「残念だが、今は時が惜しいのでな」
「そうね」

 と、華琳は黄河に眼を向ける。
 我が軍は既に上陸を開始していた。

「動きに無駄がないわね。混成軍とは思えないわ」
「ほう。あの曹孟徳から褒められるとは、我が軍も相当なものだな」
「茶化しても無駄よ、歳三。貴方の指揮が、統率力が為せる業じゃない」
「いや、それだけ月の手腕が優れているという事の裏返しであろう」
「ふふ。それならその父親になっ
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