第五章
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第五章
二人はベナレスに来た。河まで段になっていてそこから河に入るようになっていた。河の中にはもう多くの人がいて満ち足りた顔で沐浴していた。
それを見ながらだった。ハルジャが彼に声をかけてきた。
「ここがですね」
「そのガンジス河ですよね」
「はい、そうです」
まさにそこだというのだった。
「聖なる河ですよ」
「そうですか」
「ああ、こう思われていますね」
今一つ浮かない顔の彼を見てすぐにその理由を察してきた彼だった。
「聖地というには奇麗ではないと思われてますね」
「それは」
「日本人から見ればそうでしょうね」
こう言ってきたのだ。
「日本人から見れば」
「ちょっとそれは」
「わかりますよ」
そしてそれを肯定してきたのだった。
「私は日本に行ったことがありましたが」
「そうだったんですか」
「はい、そうだったんですよ」
ここでもにこやかな笑顔だった。その浅黒い顔から出ている歯の白さが眩しい。その白と黒の対比こそがインド人の出せる美しさであった。
「日本だけではありませんが」
「他の国も」
「世界中を旅行したことがありまして」
そうだったというのである。
「その時に日本も」
「成程」
「それで日本も見ましたが」
ここでさらに話すハルジャだった。
「奇麗な国ですね」
「奇麗なですか」
「どうです?インドは」
「インドは」
「はい、この国は」
こう言うのだった。剛は言われてすぐ周りを見回す。すると雑多であちこちに人やものが溢れ返っている。香料や果物、野菜が雑然と並べられ物乞いの子供達が旅行客の周りに集まりそれでせびっている。そして牛達がその中を平然と歩き回っている。まさにインドの街並みだった。
「何と言いますか」
「物凄いでしょう?」
笑いながら剛に問うてきたハルジャだった。
「ここは」
「ええ、それは」
このことは剛も素直に頷けた。こう言うしかなかった。
「もうかなり」
「日本や他の国の様に奇麗にまとまってはいません」
笑顔で語る彼だった。
「そんなことは最初から考えてもいません」
「考えてもですか」
「インドはそうです」
まさにそれこそがだというのだ。
「インドはそうなんですよ。ですからこのガンジス河も」
「そういうことですか」
「そうです。気持ちいいですよ」
その沐浴のことも話した。
「この河で身体を清めると」
「ううん、ですが僕は」
「ははは、それは言いませんから」
剛の沐浴は強制しないのだった。
「安心して下さい」
「そうですか」
「さて、それでですけれど」
河から目を離してさらに言ってきた。
「街に行きますか」
「そうですね。それじゃあ」
今度はその雑然とした街の中を進む。するとそ
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