風吹く朔の夜、月は昇らず
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「いくら柔らかく意味を隠しても、お兄さんは分かってて聞かない振りをしてるだけですよー」
「っ! また引き分けで、手を打ちましょう」
「それがよいかと。痛み分けとも言えますが」
駆け引きの応酬ながら、会話を続ける二人は出された食事の空間を目一杯に楽しんでいた。
月は耳に挟んだ内容に顔を赤らめさせて、ほんの少し妄想してしまう。元より劉備軍でソレ関連の知識を“イロイロな本”が大好きな見た目幼い竜から聞いていたが故に。
対して彼は口を挟む事も無く、もくもくと料理を味わい、小皿にサラダを取って様々なドレッシングを楽しんでいた。聞こえているが聞こえない振り。自分が話にあがろうと他人の趣味を否定する事は無く、それを分からずにそんな話をする風では無いのも理解していたので怒る事もしない。
「仲達ちゃんは秋斗さんを知ってるんですか?」
ふいと、月から零れた疑問の声に振り向き、仲達はじっと見やった。深く渦巻く紺碧色。夜の闇の訪れを想わせる色は、月を引き込むように吸い込み、無意識の内にゴクリと生唾を呑み込ませた。
「晃兄様は私の天命です。先を見通せる慧眼、世界を切り拓く意思、己が身を滅しかねない程の想い……この下らない、奪って壊される繰り返しの、ガラクタの世界を変えられる存在。私はきっと、この人と出会い世界を変える為に生まれてきたんです」
荒唐無稽なその論に、確信を持たせるような空気を纏って、彼女は冷たく言い放つ。先程の少女の姿が切り替わった事に驚くよりも、月は一つの言葉に思考が持って行かれた。
奪って壊される繰り返し。
『彼』が自分に語っていた事柄を彼女は思い出した。『彼』と同じように仲達もそれを変えようとしているのだと理解し、冷たい瞳に黒麒麟の幻影を重ねてしまう。
――この子は……徐晃隊と同じ狂信者だ。でも……誰よりも彼に近く、徐晃隊とはある意味かけ離れてる。
何を理由にそうなった、とは聞かず。月は彼女の放つ圧力を受け止めた。
仲達は黒麒麟の事を店長から聞いている。しかも、覇王から戯れに語られる情報まで余すところ無く。徐晃隊の在り方がどうなるかなど、仲達にとっては予測に容易いモノであったのだ。
独自に積み上げた思考が行き着いた先は徐晃隊のような滅私の想い……では無く、自分とその人が生きて平穏な世界を作り出すという、言うなれば鳳凰に近しいモノ。
不思議そうに仲達は眉を顰めた。何故、月は動じないんだろう、ただの侍女のはずなのに、そう考えて。言葉を投げようとした仲達だったが、穏やかな声に遮られた。
「仲達ちゃん、一つ言っておく。世界が奪って壊される繰り返しなのは間違いないが、その時々に生きている人がいるから今の世界も案外ガラクタじゃあないよ」
いつの間に淹れたのか、彼はお茶を飲みながら
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