風吹く朔の夜、月は昇らず
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」
風ちゃんの発言で、私も二つに結ってみようかなと自分の姿を想像してみた。直ぐに彼が呆れたように返答をしようとすると、部屋の引き戸の向こうから声が掛けられた。
数瞬の間を置いて現れたのは先程風ちゃんと話していた給仕さん。私と同じような身長、紺碧の瞳、白い髪に少しだけ藍色が混じっていた。彼女はふるふると震えながら歩みよってきて、照れている時の雛里ちゃんのように噛み噛みで続きを紡いでいった。
「きょ、今日の、おと、お通しは、ごびょ、ゴボウと人参の、きんぺ、金平です。ど、どぞー」
訂正しよう。雛里ちゃんよりも噛み噛みだった。女の子と知り合いなのか風ちゃんはクスクスと可笑しそうに笑っていた。
顔を真っ赤に染めて、私達の前に小鉢を並べる彼女の手は震えている。小動物のようなその姿に、雛里ちゃんの時みたく抱きしめたい欲求が沸々と湧いてしまう。その時――
「きゃうっ」
「おっと」
最後に秋斗さんの前に小鉢を置く寸前で、するりと手から落としてしまった。しかし彼が直ぐに反応した事でどうにか食べ物も零れずに済んだ。
「も、もも、申し訳、あり、ありません」
「いや、気にしないでいいよ。誰にでもちょっとした失敗はあるもんだ」
優しく微笑んだ彼はその給仕さんの頭を撫でた。彼女は一瞬ビクリと身体を跳ねさせたが、蕩けた表情で幸せそうに撫でられるに任せている。きっと彼は小さい子の頭は撫でとくもんだ、なんて考えてるんだろう。嫉妬はしなかったけど、私も撫でたい、ともさすがに言えなかった。
風ちゃんはじとっと彼を見据えていつも通りの声を紡いだ。
「ところ構わず小さい女の子を誑かすとはー……お兄さんはやはり幼女しゅ――――」
「晃兄様っ」
「うおっ」
突然、跳ねるように響いた甘い少女の声。風ちゃんの言葉が途中で止まる。私も思考が止まる。
目の前で、私達の前で、小さな給仕さんが……彼に抱きついたから。
「しし、司馬仲達と、申します。わた、私を、いも、妹にしてください」
「え……?」
私も風ちゃんも、幾分後に次の料理が運ばれてくるまで何も思考を回せず、ただ二人を見やるだけだった。
†
べったりと、甘えるように身体を預ける少女は見目美しく。されども見た目相応の行動は誰が見ても自然に思われる。
少女を膝の上に乗せた秋斗は、どうしてこうなったと内心で頭を抱えながら、司馬仲達と名乗ったその子の頭を撫で続けて、どう答えを返そうかと思考を回す。
仲達はご機嫌だった。やっと出会えた彼とこれからどんな話を重ねようかと思考を回しながら。見た目も姿も、彼女にとっては二の次。彼が自身の求めた人であればそれでよかった。思わず抱きついたのは暴走から、しかし妹発言は彼女の引き籠り計画の一環
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