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乱世の確率事象改変
風吹く朔の夜、月は昇らず
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たのだ。しかし記憶を失ってしまった秋斗と暴走している仲達を直ぐに会わせていいものかと悩みに悩んでこの時になった。
 そして仲達は彼が記憶を無くしている事を知らない。
 店長は知っている。教えていないのは彼女が働かなくなる事を危惧してであり、彼ならば記憶を失っていても仲達を惹きつけられると信頼してであった。
 一刻ほど過ぎた頃、混沌とした状態の店内に大きな鈴の音が鳴り響く。ビシリと、店内の空気は張りつめた。
 給仕たちは声を止め、店長は目を見開き、仲達は立ち上がった。

「程c様御一行、ご来店です!」

 外でその客が来るまで見張りをしていた給仕の声が響き渡り、仲達含めた全ての給仕のモノ達は無言で持ち場へと動き始めた。
 カツン、と乾いた音が厨房に響く。中華鍋を取り上げて特製のお玉で一つ叩き、店長は獰猛な笑みを浮かべてそれらを胸の前に掲げた。

「此れよりは戦場、娘娘より極上のお食事を! 料理は愛情、皆に笑顔を!」
『我らが主人は食事を楽しむ全てのお方! 料理は愛情、皆に笑顔を!』

 髪を二つに括った彼女達は営業スマイルを浮かべて入り口から二列に並び、店長の言葉を合図に乱れの無い返答を静かに、慎ましやかに、されども元気溢れる声で返した。
 娘娘で行われる開店時の掛け声は、店長を厨房の戦場で戦う戦士に変え、彼女達を接客場の戦場を駆ける舞姫へと変える。彼の部隊が行う口上に憧れて、彼に呆れたように笑って貰う為に考え出したモノであり、いつしか給仕たちが勝手に付け足したモノ。
 店長は余分な感情を振り払い、全ての神経を己が料理に集中させていった。
 彼に挨拶を行うつもりは無い。もしかしたら自分の料理で記憶が戻るかもしれない、ならば全身全霊を注ぐのみである、と考えて。

『おかえりなさいませ! ご主人様、お嬢様!』

 鈴の音が鳴り響く。同時に彼女達は最高の笑顔で客人を出迎えた。
 料理を開始しながら、二人の少女を侍らせた大きな黒い男が呆気にとられる姿が見えるようで、店長は悪戯が成功した子供のように笑みを深めた。



 †



 一言で言うなら異常な空間。私は今までこんな店に来たことは無い。
 入るなり、自分達の事を主人だと言い放つ給仕さん達。何故かその全てが侍女服を纏って髪を二つに結っている。
 ポカンと口を開け放つ事数瞬、彼を見やると……やはり呆気にとられていた。後に、彼は小さく苦笑と言葉を零した。

「クク、高級料理店がツインテメイド喫茶……だと……?」
「冥土喫茶?」

 店の名にある『ついんて』を外して聞き返すと、彼はふるふると首を振って違うと示す。自分でそう言ったのに。
 首を傾げて見つめるも彼は何も言ってくれず、ごく自然な様子でただいまと給仕さん達に笑いかけた。風ちゃんは既に一
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