風吹く朔の夜、月は昇らず
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を打ち切った彼女は、とてとてと扉に歩み寄り……
「今のお兄さんで朔夜ちゃんのお眼鏡に敵ってくれますかねー」
ふと、『彼』を待っていたもう一人の待ち人が自分の思い通りの反応をしてくれるのだろうか、と考えて一人ごちた。
†
騒がしい。否、姦しい。
まるで人気グループのライブ開演前のように店の中は声に溢れていた。
その中で際立っているのが、背後に燃える火のようなモノを幻視してしまうほど気合の入っている店長の存在。
店長は昼過ぎから店を貸切にすると皆に申し付けており、
「私は夕方から『くっきんぐふぁいたぁ』になりますので話しかけないでください」
昼過ぎの言を残されてそれっきり、誰一人として声を掛けるモノは居ない。
コトコトと煮込まれる鍋、窯は轟々と燃え、強火の炎が焚かれ、熱気は最大限。給仕たちは期待に胸を膨らませて彼の事を見やる。店長がここまで精神を統一する姿など、誰も見た事が無かったのだ。
腕を組み、額に巻いた紅いバンダナをはためかせ、目を瞑って佇む店長の姿は凛々しく、給仕たちのほぼ全てが胸をときめかせた。この日の給仕たちは、一人を除いて店長に惚れてしまったモノだけが出勤していたのも原因である。
騒がしい元はキャーキャーと声を上げる給仕たち。料理人として尊敬する男の真剣な姿は、彼女達を恋する乙女に落としていた。
店長に話しかけるでなく給仕たちだけで、開かれている厨房の周りで……何が作られるのか、では無く、自分達が料理されたいうんぬんと発言を繰り返す。話しかけるなと言われただけなので、静かにしない彼女達はある意味で逞しいと言えるだろう。
しかして一人、その輪から外れて少女が椅子に座っていた。
悩ましげに眉を顰めては蕩けた表情に変わり、ハッと気づいて引き締めては口を尖らせてうんうんと唸る。
彼女の名は司馬仲達。今日この時を随分前から待っていた。覇王に対して内密に歌姫三姉妹の手札を気付かせてからずっとである。
――これで、私が隣に立てる。あとは城に引き籠って、一緒に先読みして献策し続ければいいだけです。どうやって荀ケを抑え込むかが大きな課題。
仲達は暴走していた。
外の乱世の事は覇王に任せ、彼と共に引き籠る事しか考えていない。哀しいかな、外に出て才を振るってほしい親の望みとは違い、彼女は何処まで行っても引き籠りだった。
先読みが強すぎる彼女は外に出る事を無駄と断じ、世界を変えるのは筆を使ってだけでいいと考えている。
安穏と暮らしてきた彼女は卓上の論理しか持っておらず。されども、それは遥か彼方まで予測出来る明晰な頭脳から、万を超える道筋を読み、正解を刺し貫く刃でもあるのが問題点。
実の所、風はこの半月の内、何時でも此処に秋斗を連れてくる事が出来
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