風吹く朔の夜、月は昇らず
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するなバカ!」
「まだ言ってませんけどねー。ふふ、でも風に勝とうなんて十年早いのですよ」
「はぁ、お前さんは俺がそういうの止めるの分かってるから性質悪い」
口に手を当てて柔らかく笑う風。がっくりと肩を落とした彼も楽しそうに微笑んでいた。
毎日のように行われる他愛ない彼とのやり取りは風を楽しませている。彼女にとっていじめがいがあった、とも言えるのだが。
「月ちゃんと一緒に行きたいのは記憶の事でしょうし、今回は特別に許可してあげましょうか」
「……ありがと。半刻後に門の前で落ち合おうか。じゃあゆえゆえ呼びに行ってくる」
「いってらっしゃーい」
ふりふりと小さく手を振った彼女は、扉が閉まるのをぼんやりと見ていた。
彼女とて、月が来たからといって困るはずもなく、むしろ記憶の回復の為に呼ぶつもりであった。彼が先に言ってきたから、からかいがてら女として咎めただけ。
――お兄さんは鈍感さんですから、月ちゃんたちが苦労していたのが目に見えますね。
直接対峙した場合、人物の観察眼という点に於いて、曹操軍で風の右に出るモノは居ない。
彼女はのんびりとしたように見えるがやはり軍師であり、冷徹に全てを見やる事が出来る。華琳は風のそういう面を誰よりも評価して居て、桂花や稟には無い持ち味だとして重宝している。
のらりくらりとした会話には散りばめられた思考誘導と探りが隠され、かの白馬の片腕はそれにまんまと嵌められた事は言うまでも無い。
ただ、彼と行われる戯れのやり取りにはそういった駆け引きはしない。緩く吹き抜ける風を涼しく受けて、何故か手でそれよりも大きな風を起こそうと必死になる子供のような彼との、そんなやり取りが気に入っている為に。
「うーん、満ち欠けする月のような人、といった所でしょうか」
見る時によって決まったカタチの無い彼の在り方をそう評価した。
風は秋斗との対面を、星の友達という事で心待ちにしていた部分が大きく、実際会ってみると……なるほど星の友になれるだろうと納得していた。初めて出会った当初から、風独特の会話テンポにゆるゆると入り込んで自分から巻き込まれていく彼が居たから。
優しい面も、臆病な面も、分かりすぎる程に将としての情報とはかけ離れていて、月から平穏に過ごす時の彼は前から変わってないと聞いて、そして何より余り他人と噛み合わない自分に合わせてくれるのが面白いと感じた彼女は、友達となる事で真名を許した。
真名の通りに、誰にも掴めない風のような彼女と、曖昧に姿が定まらない彼。なんとなく波長が合って面白い時間が増えているが、風にすればそれは嬉しいこと。ましてやそれが、星の悪戯心に稟の素直ないじり易さを足したような面白さなら尚更。
自分の待ち人は中々に待った甲斐のある人物だった、と思考
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