風吹く朔の夜、月は昇らず
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れたというのに、また生贄になろうとするのですか。覇王はあなたを体の良い道具にする可能性さえあるというのに」
この子は何を怖がってるんだろう。私はただ、私に出来る事をするだけなのに。『彼女』が秋斗さんと同じなら、誰だって切り捨てられるかもしれないのは当然のはずなのに。
「私は一人の女の子を助けたい。それと……彼に預けていた重荷をもう一度背負いたい。……あともう一つ」
仲達ちゃんは目を見開いた。
彼女はやっぱり頭がいい。私が言う事を簡単に予測してる。
「絶望の底にいる優しい人を助けられるのは私だけ。例え支える子が傍に居たとしても……居るからこそ救われない。
でも、まだ助ける時じゃない。……今だと誰も救われなくて、帰って来たら殺しちゃうと思う」
私は欲張りだ。大切な人を皆救いたくて、『彼女』を利用して、最後にあの優しい人の価値観を捻じ曲げるのだから。
彼の重荷を背負いなおしたら、私は胸を張って雛里ちゃんの隣に並べる……なんて甘い考えもあるのだから。
「どれだけ……あなたは欲深いんですか」
「うん、私は誰よりも欲深い。幸せな世界をただ見せて貰うつもりでいたし……」
言葉を区切ると、今は違うのですかと、彼女は無言で訴えてきた。
私は目を瞑り、大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。私の短い人生を振り返りながら。
「私は私の好きな人達に幸せになって欲しい。だから、可能性があるのなら、私は私に出来る事をして、その人たちに幸せを与えたい。それが私の幸せの一番大きなカタチなんだよ」
多くの人の幸せを奪って。彼のように、昔の私のように。
仲達ちゃんは少しだけ目を瞑って、私に言葉を流した。
「私の真名は朔夜です、月姉様。あなたの思惑、見届けさせて下さい」
見届けるのは私に一人でやれと言っている。
誰かに頼るよりも、私は一人でやり遂げたい思う。一つ一つ紐解いて行こう。
「ありがとう、朔夜ちゃん」
「……少し、抱きついていいですか?」
小さく笑うと、彼女は照れくさそうに私に言ってきた。まだ甘えたい年頃なのかもしれない。
おいで、と腕を開くと彼女は飛び込んできた。
甘い匂いに満たされて、私は彼女の頭を撫で続けた。冷たい世界しか見えなかったこの子にも、暖かい世界をこれからたくさん見せてあげよう。
そんな願いを込めた、私に妹が出来た日の暖かい午後。
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