風吹く朔の夜、月は昇らず
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店長特製の紅茶を入れ始めていた彼女はゆっくりと顔を上げる。
紺碧の瞳にはほんの少しの寂しさと、大きな決意の色。
「私は――――」
答えが紡がれ、店長は彼女の頭を撫でて、またいつでも来てくださいと微笑みながら言った。一緒に働けて楽しかったですよと付け足して。
彼が黒麒麟では無くとも、仲達は娘娘から出て行く事になった。
三人は店長においしかったと告げて、たくさんの給仕に笑顔で見送られて娘娘を後にした。仲達だけは、送別会の為にその日の遅くまで給仕たちと別れを惜しんでいた。
娘娘での出来事から数日。彼の部屋に一人の客人が訪れた。
ひらひらと可愛らしい服を着た、白い髪を頭の上でちょろっと括った少女は慎ましやかに一礼をして、秋斗と月に微笑んだ。
「改めて、名乗らせていただきます。姓は司馬、名を懿、字を仲達……真名を朔夜と申します。まだ外を、知らぬ身なれど、真月を空に上げる為に尽力させてください」
「姓は徐、名は晃、字は公明……真名は秋斗だ。客分の身だが、これから世界を変える為にその頭脳を貸してくれ、朔夜」
「はいっ、秋兄様っ!」
賢狼は覇王に着かず、彼と共にある事を選んだ。
許したのは風。覇王ならば二人共御しきれると信頼を置いて。
そして月は……
「月姉様も、これからよろしくお願いします」
「うん、よろしくね。朔夜ちゃん」
賢狼の姉になった。
〜月と狼〜
風ちゃんからの呼び出しがあって来客用の部屋に向かっていた。
私個人に用がある人とは誰だろうと考えながら扉を開いて……少し驚いた。
「……仲達ちゃん」
「お久しぶり、と言っても二日ほどでしょうか」
侍女服では無い彼女は凄く愛らしくて、うずうずとなでなでしたい衝動が湧いて出たがどうにか抑え込んだ。
お互いに椅子に座って向かい合うと視線が結ばれる。その色は私の事を見定めようとしているモノだ。
「風ちゃんから、聞きました。あなたが嘗てどのような人物だったのかを」
静かに紡がれるも、私の心は波立たない。曹操軍に関わるのなら彼女も私の事を知って当たり前なのだから。
「覇王があなたに提示した事も、悩んだ末のあなたの解答も聞きました」
「……そっか」
曹操軍では劉備軍のような中途半端は許されない。だから私は『彼女』と一つの賭けを……雛里ちゃんには内緒でしている。
「黒麒麟が帰って来なければあなたは名も無き侍女のまま。黒麒麟が無事帰ってきた暁には……覇王の妹になる、と」
冷たい視線は何を思ってか。ずっと見つめ続けると、彼女は怯えの色を浮かべた。
「何故、やっと王の重圧から解放さ
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