風吹く朔の夜、月は昇らず
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しく、風は勝利の笑みを漏らした。
「黒麒麟だった時の記憶を失ってますけどねー」
バッと振り向いた彼女は風の顔を見やり、感情の読めなかったはずの半目を見て、何故教えてくれなかったのか、それを直ぐに理解した。
後に、苦悶の表情を浮かべ、歯をギリと噛みしめた彼女は、悔しさに落ち込む声を引き絞った。
「それなら……私の負け、です。風ちゃん」
「いえいえー、結局風は何もしてませんから、引き分けという事で」
仲達の行方を探しても見つけられなかった華琳であったが、風だけは偶然彼女を見つけていた。
士官を求めるでもなく、ただの友達として店に来るたびに論を交わし、仲達の人となりを判断した上で、風は彼女がしっかりと働けるような引き込み方を考えていたのだ。
秋斗と話をさせ、最後の最後で彼女の求めていた黒麒麟とは違うと示し、世界が自分の予測通りに行くわけが無いと思い知らせること。それが風なりに箱庭に籠ろうとする仲達へ送った外の世界への誘いの手紙。
初めは同等程度だと感じていた友達にやり込められて、仲達は初めて湧き上がる燃えるような悔しさを感じた……彼女にとって、それが同時に面白い。
自分に足りないモノを喰らって勝て、と内に秘める獣が大きく吠えた。
次の料理が運ばれても、仲達はそれ以降何も自分から話さなかった。ただ次々と、自身の内部に渦巻き始めた幾つもの感情を見つめて、急速に色づいていく世界に嬉しさを感じていた。
異常な存在を目にして興味が膨れ上がり、人の心を動かす巡風に靡かれて扉は開かれた。
此処に、引き籠っていたはずの、大陸の全てを喰らう賢狼が歩み始めた。
†
出される料理の話や街の事、他愛ない話を繰り返し、最後の料理が運ばれてきた時、秋斗と月は愕然としていた。
「まさか……ミルクアイスまであるのかよ」
目の前に並べられたのは冷気を放つ甘味。冬でも無いこの時期にそんなモノがあるなんて、誰が考えられようか。
その正体は牛乳に砂糖を溶かして煮詰め、凍らせただけの簡単に作れるアイスだった。
仲達と風は既においしそうに小さな特別製の銀のスプーンで食べ始めていた。
「さて、お兄さん。気付いていると思いますが娘娘で出てくる料理の真実を教えましょう。此処はお兄さんが教えた料理を取り扱うお店なのですよー。それに店長さんとお兄さんは友達だったとのこと」
「……通りで……俺の好きなもんしか出て来ないわけだ」
「ふむふむ、今日の料理がお兄さんの好みだったのですか」
「まあな。オムライスにハンバーグ、チキンドリアにミートソースパスタ……洋食だけってのは次の来店を考えて……だろ、店長さんよ?」
言いながら彼が振り返ると、そこには年齢の読み取りにくい男が立っていた。微笑む瞳には歓喜
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