風吹く朔の夜、月は昇らず
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に。
「さぞ、今まではつまらん世界だったろう。頭の中の現実しか、与えられた箱庭の中でしか全てを知らないんだから」
「……では聞きましょう。あなたは私の思考を上回れると、そう言うのですか?」
自分の知らない事を知っているのか、とは仲達は返さない。そんなモノの差はお互いに理解していて当然。事実確認が終わった事を話すような無駄はしない。
飛び越えた論点は思考能力の高い軍師、もしくは即時対応の出来るモノでしか着いて行けない話。彼を試したのだ。同じ知識を持てば辿り着ける程度があなたの言うモノなのか、と。
仲達の仕掛けた罠に気付いたのは風だけであったが……彼は駆け引きを理解せずとも、純粋に投げかけられた質問に答える事で……彼女の枠を壊しに掛かった。
「いいや、お前さんの思考能力には絶対に敵わんよ。俺はお前さんがガラクタと言う世界の中で、面白いモノや恐ろしいモノを沢山知ってるだけだな。ただ、それを扱う術も、楽しむ術も、作り出す術も知ってる。クク……ガラクタでも繋ぎ合わせれば自分の欲しいモノに出来るって知らないのは哀しいなぁ?」
にやりと不敵に笑い、秋斗はその先を繋げない。俺が知ってるモノを自分で考えてみろ、予測を立てて見ろと、そう言うように。
切り捨てられる人に自分を置き換えて考えられないのか、などと感情論の高説を垂れる事も無く、大きな一つだけを見ずにガラクタの中から自分が欲しいと思えるモノを幾つも作ってみたらどうだと、彼は仲達に発破を掛けた。
物事の結論を他人に委ね、事柄の全てを曖昧にぼかし尽くす彼の本質を示しつつ、『箱はいらないから別のモノが欲しい』の裏を、『箱をやるから欲しいモノをどうにか自分で手に入れろ』を仲達に放り投げた。コインは表と裏で一つのカタチであり、彼の全てが滲み出ていた答え。
上から目線の物言いをする秋斗は、怒っているというよりは彼女を誘っているように見えて、風はほんの少しだけ彼に覇王を重ねて目を見開き、月は懐かしい黒き大徳の片鱗を感じて目を伏せた。
「……ふふ、傲慢な人」
「あはは! その通りだから言い返せないな」
月は静かに笑いあう二人を見つめ、心で涙を零した。彼が根本的に全く変わらない事に理解を深めた。今の人も救える限り救いたくて、変えたい世界でも楽しい事があると言っていた姿を思い出して……切り捨ててきた命の想いを繋ぐと言った彼に、今の秋斗も向かうのだと予測に容易かった。
次第に甘い色を深めて行く仲達の瞳。目線を切った秋斗がお茶を啜るのを見て、風は覇王と初めて相対した時のような震えを抑え付け、横からのんびりと声を掛けた。
「どうですか朔夜ちゃん。お兄さんは」
「……予想通り、楽しい人です。面白い人です。興味深い人です」
蕩けた表情で言う彼女に、口に手を当てて愛ら
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