風吹く朔の夜、月は昇らず
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ているかのように思えていたのだ。独自の発想、というモノでは無く経験や知識と言うべきモノと判断していた。
ただ、記憶を失っているので詳しく聞いてみるのも億劫に感じて、有益である為にそのまま己が頭脳に彼の献策を記憶しつつ、手の回る範囲で進めて行くだけであった。
「ではそろそろ娘娘に向かいましょうか」
昨日約束を取り付けておいた案件をのんびりと話し、立ち上がってからとてとてと歩みを進めようとして――
「なぁ、ゆえゆえも連れて行っていいか?」
彼が気まずそうに零し、身長差から顔を上げた風は彼の瞳を半目で見据えた。
目は口程にモノを言う。聡い人物が見れば、感情や思惑がある程度透けて見える。彼女は……秋斗の感情を軽く読み取れる程に聡い方であった。
其処にあったのは優しい色と申し訳なさを宿した瞳。一応、なんとも思っていないが彼女はむっと眉を顰めて咎めておく事にした。
「風が二人で逢い引きに誘ったというのに他の女の子を呼びたいなんて……お兄さんは女心が分かってないのです」
キョトンとした表情になった彼は、後に意地悪い笑みを浮かべてくつくつと喉を鳴らし、
「マジか、風と二人っきりの逢い引きを宝ャが許してくれるとは意外だな」
風の頭に乗っている宝ャを見据えて零した。すると、宝ャはビシリと、手に持つ飴を秋斗に突き付けた。
「おうおう、オレを使って誤魔化そうなんざやり口が汚ねぇぜ兄ちゃん」
「あー……俺、宝ャ語とか分からねぇんだわ。風、通訳してくれ」
おどけて言う彼は楽しそうに目を向ける。期待の色が濃い眼差しはどんな答えを返してくれるのかと悪戯心が真っ直ぐに出ていた。
「そですねー、簡単に言うと風だけでなく月ちゃんも侍らせたいなんてケダモノめ、と言っているのです」
「ちょっと待て! 全く違うじゃねぇか!」
さすがの秋斗もそこまで言われては突っ込まざるを得ず、クスクスと風は悪戯っぽく笑った。そして彼女と宝ャがこのまま手を緩めるはずが無い。
「風を誤魔化せるわけないだろうが、幼女趣味のケダモノめ」
「宝ャ、てめぇ……そのペロキャン引っこ抜くぞ」
追い打ちを掛けられて、頭の上でやれやれと首を振る宝ャに、頬をひくつかせる彼は手を伸ばそうとするも、
「きゃー、襲われるのですー」
「……棒読みで言っても緊迫感とか皆無だぞ」
風にわたわたと手を振って示され、苦笑してため息を一つ。戯れは此処で終わりだというように。
だが、先に戯れを向けられた彼女は彼が降参するまで終わらせるはずも無かった。
「こんな可愛い女の子を前にして襲わないとは……お兄さんはもしかして不の――」
「はい止め、俺の負けだ! 女心が分かって無かったです! 可愛い女の子なら簡単にそんな発言
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