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第五章

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第五章

「しかしだ。それを恐れてはならない」
「何処までも正論だな」
「全くですね」
「見事なまでに」
 スタッフ達も苦笑いにならざるを得ないまでの正論であった。
「しかし。それでも」
「ここまで来ると次の言葉がわかってきますね」
「読めるよな」
「確かに」
 その通りだった。そしてその結果はだ。
「義勇軍にばかり負担を強いるのはどうか!」
「やっぱり」
「義勇軍のことを言ってきたか」
「本当にこう来ましたね」
「それはよくない。正規軍も汗をかかなくてはならない!」
 彼は言うのだった。
「だからだ。正規軍も犠牲を恐れずに戦うべきだ!」
「とはいえ」
「正規軍に犠牲を出させるわけにもいませんし」
「しかも」
 正規軍を積極的に前に出すことができない理由は犠牲を出したくないというだけではなかった。その他にもありそれも問題なのだった。
「練度も低く」
「義勇軍に比べるとかなり」
「困ったことに」
 正規軍は規律には厳しいが訓練は穏やかなものである。だから必然的にその質はお世辞にもいいものではなくマウリア、エウロパ、サハラといった四つの文明圏の中では最も弱いとまで言われている。
「だからどうしても」
「それは」
「質の改善を!」
 また読み通り叫ぶ彼だった。
「連合軍の質の改善を!訓練に次ぐ訓練を!」
「どうしてこう予想通りのことを言うのかな」
「ここまで読める人も珍しいですよね」
「全く」
「いえ、それでもです」
 ここですらりとした長身に見事な黒髪の端麗な青年が出て来た。スーツが実によく似合っている。その彼が出て来て言ったのである。
「正論も必要です」
「あっ、長官」
「こちらにいらしてたんですか」
「はい」
 その国防長官である八条義統である。日本の名門の出身であり日本政界において切れ者として名が知られるようになり中央政府国防省と中央軍創設にあたって初代長官に任命され今辣腕を振るっている。その彼だ。
「丁度仕事が一段落しまして」
「それでこちらに来られたのですか」
「あの御仁を見に来られたのですね」
「そうです。見たところあの方は」
 今も国防省の前で一人プラカードを持って拡声器で抗議する彼を見ての言葉だ。
「必死に連合のことを考えておられますね」
「それはそうですね」
「確かに」
 スタッフ達も彼のその言葉に頷く。
「かなり真面目に」
「考えておられますね」
「それは必ず道を開きます」
 八条は言う。
「そう、必ずです」
「それはどういった道でしょうか」
「一体」
「あの方の道。そして」
 八条は静かに話し続ける。
「もう一つの道をです」
「もう一つの道といいますと」
「それは」
「正論は必要です」
 八条はまた言った。

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