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一輪の花
第三章
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第三章

「靴屋じゃ。どうじゃ?」
「靴屋か」
「そうじゃ。丁度靴なら進駐軍の連中からアホ程手に入るしや」
 それで靴の仕入れには困らないというのである。肝心の靴がだ。
「普通の靴もブーツもな」
「じゃあそれやるんか」
「ああ、どうや」
 こう兄に提案する。そして彼の返答はどうかというとだ。
「仕入れの値段どれ位じゃ」
「ただじゃ」
「ただか」
「そうじゃ。捨てるような靴を手に入れるんじゃけえのお」
 だから仕入れに金はいらないというのである。優一はそれを聞いて目を動かした。そうしてそのうえで述べるのだった。
「そうじゃな。ええのう」
「よし、それで決まりじゃな」
「ああ、わし等はこれで明日から靴屋じゃ」
 早速進駐軍の基地に行きそのうえで靴を貰いそれを売るのだった。靴屋は靴磨きよりも儲かった。既に父親も戻っており二人の生活は戻ってきていた。
 広島の街も次第に復旧してきており人も少しずつ戻ってきていた。しかしだった。
 まだ何もなかった。人は戻ってもだ。広島にはまだあるものがなかった。
「やっぱり何処にもないな」
「そうじゃな」
 優二が優一の言葉に頷いていた。二人は店に来るまでにいつも広島の街を歩いていたのである。そうしていつもあるものを探していたのである。
 しかし見つかりはしなかったのだ。その探しているものはだ。広島の何処にもなかった。
「草の一本も生えんわ」
「やっぱりピカは全部のうなくしてたみたいじゃな」
「そうじゃな」
 諦めた様な言葉で話していくのだった。
「ホンマにずっと草木の一本も生えんみたいじゃな」
「そうじゃなあ」
「折角街は元に戻ってきてるっちゅうのにじゃ」
 こう言って項垂れるばかりの彼等だった。
「そればっかりはか」
「人は戻ってもな」
「それはなしか」
 こう話すばかりだった。だが話してもそれで草木が生えてくるわけではなかった。彼等にとってはどうしようもないまでにやるせないことだった。
 来る日も来る日も探したがそれでもだった。何一つとして見つかりはしない。草の一本もである。しかしある日のことであった。
 ふと前に一人の小さな女の子が来たのだ。もんぺを掃いた可愛らしい女の子である。その娘が二人の目にふと入ったのである。
「おい、お嬢ちゃん」
「靴欲しいかい?」
「安いけえ。何か買っていけや」
 こう声をかけた。その女の子は二人の方に歩いてきた。二人の前には様々な靴がうず高く積まれている。その中には小さな女の子の靴もあった。当然それはアメリカ軍の家族の靴である。もうぼろぼろになっているがそれでもこの時代の人達にとっては有り難い靴だったのも事実なのである。
 二人はそのうちの一足を持ってみせて話す。するとだった。
 その娘の手にあるものが目に
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