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一輪の花
第二章

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第二章

「どないするんや?仕事場消えたぞ」
「親方も何処行ったかわからんしな」
「わしのとこの社長は死んでたわ」
 優二のところはそうなっていたのだ。
「社長も奥さんも皆や。ぐずぐずに焼けてもう恐ろしい肌になっててな」
「それで死んでたか」
「全然あかんかった」
 首を横に振っての言葉だった。
「誰一人として生きてへんかったわ」
「そうか。わしのところは今のところどうなったかわからん」
「あかんかもしらんな」
「覚悟はしとるわ。ええ人等やったんじゃがな」
「そうか。まあとにかく今はじゃ」
 優二はここで話を変えてきた。戻してきたと言ってもいい。
「これからじゃが」
「どうして食うていくかじゃな」
「どうする?それで」
 このことを兄に問うのである。
「これから。何して食う?」
「何かするか」
 優一は少し虚ろな顔で弟の言葉に応えた。
「屋台でもするか?」
「屋台か」
「それともじゃ」
 顔をあげて周りを見る。瓦礫の中を人々があてもなく彷徨っている。その人々を見てこう言ったのである。
「靴でも磨くか」
「靴磨きか」
「母ちゃんは畑から離れられん」
「ああ」
「父ちゃんが戻って来るのはもう少し先じゃ」
「生きてるだけでも儲けものじゃな」
 そのことは嬉しい。しかしなのだった。
「わし等二人はじゃ。それで金稼ぐか」
「わかった。それじゃ靴磨きじゃな」
「ああ、それじゃ」
 こうしてであった。二人は靴磨きをはじめた。それで金を稼ぐことにしたのだ。
 道行く人に声をかけてである。それでかなり強引に靴を磨くのだ。
「おいおっさん、靴じゃ」
「靴磨かせてくれ」
「安いからのう」
「そやからじゃ」
 こうして何としても金を手に入れていた。金がないならものだった。二人は瓦礫になり果てた広島と家を行き来してそうしてやっていった。進駐軍が来ると彼等に集中的にたかり靴を磨きチップどころかチョコレートやキャンデーまでねだってだ。そうして何とか生きていた。
 その中でだ。二人は客がいない合間にこんな話をしていた。周りは相変わらず瓦礫ばかりだ。だが少しずつ人だかりができ二人の周りにも粗末が店が並んできていた。その中で話をしていたのだ。
「なあ」
 優一の方から声をかけた。今二人は瓦礫を椅子にして並んで座っている。
「最近やっと人が集まってきたな」
「そうじゃな」
 優二も兄のその言葉に応えた。
「やっとじゃな、本当に」
「死体もなくなってきたしな」
「ああ。それでだけれどじゃ兄貴」
 優二はここで兄に対して言ってきた。
「わし等もう靴磨きから仕事変えんか?」
「何の仕事にじゃ?」
「靴屋やらんか?」
 こう言うのである。

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