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百合を妻と
第二章
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「残念だな」
「そうですか、それでは」
「何をしようか、テレビもな」
 それもだった。
「最近はいい番組が少ない」
「そうですね、どうにも」
「テレビも悪くなった」
 番組の質がだというのだ侯爵は豪奢なソファーに座ったまま難しい顔で妻に話した。このことには実は憂いを感じているのだ。
「作っている人間に問題があるか」
「そうかも知れないですね」
「本当にな。だからテレビもな」
「それもですね」
「映画や昔の番組を観るか」
「ではDVDを買われますか」
「そうしようか、しかし読書とDVDだけか」
 侯爵はここで寂しい笑みを浮かべた。気品のある細面の、グレーの瞳と髪の顔がそうなった。グレーの髪は元は黒かったが年齢を重ねてそうなったのだ。それをオールバックにしている。長身で痩せたスタイルだ。夫人も今はブロンドの髪がグレーになっているが容姿は年老いてもまだ整っている。青い目は澄んでいて皺のある顔は今も整っている。脂肪のないすらりとした身体を品のいい白いドレスで包んでいる。
 その侯爵がだ、こう言うのだった。
「暇というのもな」
「嫌なものですか」
「慣れていない、いや」
 ここでこう言い換えた。
「はじめてだ」
「時間が余分にある生活はですね」
「忙しい時は休みたかった」
 しかしいざだ、時間が好きなだけあるとだというのだ。
「今は暇で仕方がない」
「困ったものですね」
「何をすべきか」
 侯爵は考える顔で言った。
「一体な」
「考えてみますか」
「そうしようか」
 侯爵は時間を持て余していた、することといえば日常生活と読書に映画鑑賞、それと時折夜にクラシックやオペラを聴きに行く位だ。本当に退屈になった。
 朝早く起きて朝食を食べてから本当に暇だ、別邸の庭を散策しても。
 それでだ、溜息をついて妻に言うのだった。
「日本人もせわしなく働くが」
「それでいざやることがなくなればですね」
「今の私の様になるらしいな」
 緑の庭をだ、妻と歩きながら言った言葉だ。朝の緑の庭は丁寧に整えられているがそれだけであり実に寂しい。
「退屈で仕方がないと」
「それまで忙しく働いていて時間が出来るとですね」
「これまではわからかった」
 日本人のそうした話を聞いてもだ。
「本当にそうなのかとな」
「それがですね」
「いざ自分がなるとな」
 その今の自分と日本人を重ね合わせての言葉だ。
「よくわかる」
「最初は思われなくとも」
「そうだ、エコノニックアニマルという言葉があったが」
 今では使われていない言葉だ、働き通しでそれしかない日本人を批判もっと悪く言えば揶揄した言葉である。
「私も同じだ、仕事ばかりで急に暇になると」
「かえってその暇を持て余しますね」
「そうなるな、そうなると困
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