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百合を妻と
第一章
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                        百合を妻と
 ヴィンセント=ヴァン=アルベンクは由緒正しい侯爵家の当主だ、ネーデルラント王国即ちオランダでは今も資産家かつ政界の有力者として知られている。王室とも縁がありオランダにおいてはかなりの名士である。
 しか侯爵も今では七十を越えて身体のあちこちが痛んできている、妻のマリーにもよくこうした言葉を漏らしていた。
「最近どうもな」
「お身体がですか」
「痛い、節々がな」
「それは神経痛でしょうか」
「そうかもな、私も歳だな」
 代々住んでいる古い邸宅において妻に話す。広く見事な邸宅だ、邸宅というよりは屋敷、屋敷というよりは宮殿と言っていい。
 その邸宅の一室でだ、侯爵は夫人に言うのだ。
「もう引退すべきか」
「それでは政界からも」
「退こうと思っている」
 年齢を感じてのことだ。
「もうな」
「そうですね、では」
「私の後継者達もいる」
 息子だけではない、二人の間には息子がいてその後に娘が二人いる、三人共既に家庭を持っており曾孫すらいる。
「それに党にもな」
「最近は若い方々がですね」
「成長してきているしな」
 それもあってだというのだ。
「もう私は退くべきだな」
「ではですね」
「政界から引退だ、そして家の当主もだ」
 それもだというのだ。
「ミヒャルトに譲ろう」
 息子である彼にだというのだ。
「いささか頑固だがな」
「それでもですね」
「まあ大丈夫だな、だからな」
 それでだというのだ。
「家の当主の座もな」
「譲りですね」
「そこからも退く」
 是非だ、そうしようというのだ。
「後は悠々自適の生活になるな」
「これまでいつも動かれていましたが」
「本当にな。忙しかった」
 大学を卒業してから家の仕事に政治家としての仕事にだ、侯爵はせわしく動いてきた。その間妻を迎えもう五十年になろうとしている。
 だが今はだ、もうだというのだ。
「しかしこれからはな」
「ゆっくりと過ごせますね」
「そうだな」
 それが出来るとだ、侯爵は笑顔で述べた。
「やっと休める」
「今までお疲れ様でした」
 二人でこう話す、侯爵は実際に政界からも家の当主の座もアルベンク家が携わっている事業の全てから退いた。別邸に入りそこで隠居生活に入った。
 しかしいざ隠居生活に入るとだ、侯爵はすぐに共に住んでいる妻にこう言った。
「どうもな」
「何かありましたか?」
「いや、隠居して何もしないというのはな」
 それがだとだ、どうにもせわしない顔で妻に言うのだった。服もネクタイを締めてはいるがかなりラフな感じになっている。
「手持ち無沙汰というかな」
「退屈ですか」
「無為というのか」
 東洋的な言葉も出した。
「読書はしている
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