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二つの水
第三章

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「急げ、いいな」
「いや、もうな」
 そう言うより前にだった、既に。
 別の村人が妖精を見付けた、そして。
 彼がだ、大声で叫んだ。
「来たぞ!あいつだ!」
「そうか、来たか!」
「あいつが!」
「ああ、来たぞ!」
「桶だ!」
「桶を持って出るんだ!」
 誰かが言ってだ、それに応えて。
 皆その真水で一杯にした桶を持って外に出た。そのうえで妖精に対して。
 その桶の水を次次にかける、すると。
 妖精は急に苦しみだした。これまではまさに我がもの顔で暴れていたというのに。
 苦悶の声をあげてその場でもがき苦しむ、それを見てだった。
 長老は村人達にだ、こう言った。
「もっとだ!もっとかけろ!」
「真水を!」
「今以上に!」
「そうだ、かけるんだ!」
 こう叫ぶのだった。
「いいな!」
「はい、じゃあ!」
「もっと!」
 村人達も応え用意していた水だけでなく井戸からもどんどん汲んで浴びせる。そうしてそれを続けていると。
 妖精の身体がどろりと溶けだし遂にだった、泥の様になっていった。
 肉色の泥にさらに水をかけると遂に完全に溶けて汚い池の様になった、そしてそこでだった。 
 水で洗い流すとなくなってしまった。こうして妖精は消えてしまった。
 村人達は妖精が消えた場所を囲みながら長老に尋ねた。
「長老、何だったんでしょうか」
「あの妖精は一体」
「あんなに強かったのに真水をかけると死にましたね」
「消えましたね」
「そうだな、これはわしの考えだが」
 この前置きからだ、長老は村人達に答えた。
「あの妖精は海から出て来たな」
「はい、確かに」
「そうしてきました」
「そして暴れ回っていました」
「いつも」
「海にいると。妖精でもだが」
 どんな生きものでもだというのだ。
「海水に慣れているからな」
「真水には弱いんですか」
「そういうことですか」
「海にいると川には棲めない」
 そういうものではないかというのだ。
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