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大阪の妖怪
第二章
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「今行ってもしゃあないな」
「そやな、今行って難波で美味しいもん食べるつもりやったやろ」
「カレーでもな、食ってからと思ってたんや」
 実際にそう思っていたと答えた織田だった。
「自由軒のな」
「あんたあのお店好きやからな」
「カレーとルーを最初から混ぜてるのがええんや」
 織田の好きなカレーだ、そこに卵を落として食べるのだ。
「あれがな」
「そやけど夜やさかいな」
「善哉もうな丼もあかんな」
 そうした織田の好きなものも食べられない、真夜中の話ならだ。
「何処もしまっとるわ」
「ほな確かめには行かへんのか?」
「いや、書くネタになるんやったらな」
 それならだとだ、織田はこのことは妻にはっきりと答えた。
「行くで、書く為のネタは幾つあってもええ」
「そう言うと思ったわ。そやったらな」
「とりあえず仕事や」
 今から自分の部屋に入って執筆にかかるというのだ。織田は速筆で机に向かえばとにかく一心不乱に書く男だ、それで仕事をしてからだというのだ。
「それで真夜中になったらや」
「二人でやな」
「行くで、デートがてらな」
「化けもの見物やな」
「この目で見たるわ」
 織田は再び煙草を吸いつつ言う、煙草の味が事変が続くにつれてまずくなってきていることに嫌なものを感じながら。
「御前はそれまで寝といたらええや」
「女房の一人寝やな」
「二人寝になるのは帰ってからや」
 こうしたことを話してだった、織田はまずは仕事をした。そのうえで真夜中になると妻を起こしに床に行こうとした、だが。
 自分の部屋を出るとだ、もうその前に一枝がにこりとして立っていた、外套と帽子も既にその手に持っている。
 その外套と帽子を織田に渡しながらだ、こう言うのだった。
「ほな行こか」
「何や、もう起きてるんかいな」
「ついつい早めに目が覚めてな」
「うきうきしてかいな」
「真夜中のデートも面白いやろ」
「全く、色もの好きやな」
「色ものを書く人の女房やさかいな」
 織田の作品は純文学かというと少し違う、大阪の市井の多少裏道にある様な人達を書くことが多い。それでなのだった。
 それでだ、一枝も笑ってこう言うのだった。
「そやからや」
「まあわしは生まれついての色ものやしな」
「それでその旦那と結婚したおなごはや」
「色ものやな」
「そういうこっちゃ。ほな行こか」
「ああ、難波までな」
 織田は妻の言葉に頷き渋い緑の着流しの上に黒い外套を羽織り帽子も被った。そして下駄で女房と共に家を出た。
 真夜中の大阪は昼よりはかなり人が減っていた、ネオンも次々にその光を消していっている。それを見てだった。
 織田は風情があるという顔でだ、隣にいる一枝に言った。
「おもろいわ」
「夜の大阪がかいな」
「もう店も閉
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