第三章
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「楽しみにしてるわね」
「そう言うんだ」
「ええ、絶対にだから」
自分の長い髪の毛がなびく振り向く姿のことも意識しながらの言葉だ、女の後ろ姿、振り向いてのそれの威力はわかってきている。これで仕掛けは充分だ。
その日曜日私は私なりにお洒落をして駅前のベンチに座った、待ち合わせの時は伝えているし後は彼次第だ。
その時を楽しみに待つことにした、私はそうしながらこう思っていた。
「来るも来ないも」
それはというと。
「彼次第、どうかしら」
来て欲しいのは本音だけれど来ないことも充分予想していた、彼の性格なら。
「少し位ならルールは破ってもいいでしょ、破ってもいい位のものなら」
私は自分の考えから思った。
「全く杓子定規もね」
時として堅苦し過ぎる、それでだった。
彼にあえて仕掛けた、仕掛けは充分したから後は本当に彼次第だ。
それでだ、今は待つことにしたのだ。
待ち合わせの約束時間が近付いている、しかし。
いつもは十分前にはもういる彼はまだ出て来ていない、影も形も見えない。
それで私もこう思った。
「今回は無理かしらね」
家族と一緒に教会に行ったと思った、間違いなく。
それでも待ち合わせ時間までは待つことにした、それでも時間になっても来ないとそれで帰るつもりだった。
本を読みながら待とうと思ったけれど気がはやってそんな気分になれない、それで今はただ座って腕時計を見て待つだけだった。
そして五分前になり四分前、三分前になった。けれど。
やはり彼は来ない、二分前になったが。
そのまま一分を切った、だがそれでもだった。
彼は出て来ない、そして遂に。
三十秒を切った、そこからも時が過ぎていく。
二十秒になり十五秒、十秒になった。そこで周囲を見回すけれど。
彼はいない、何処にも、時計の時間はさらに進んでいく。
九秒になり八秒、七秒になって。
六、五、四、三、そして。
二秒になり一秒になった、後は。
遂にその時になった、けれど。
彼はいない。それで帰ろうと思って席を立ったその前に。
彼が来ていた、全力で駆けてきたのか肩で息をしている。そのうえでこう私に言って来た。
「来たよ」
「時間通りよ」
「教会から出てすぐにね」
「ここまで来たの」
「駆けてきたよ」
それで来たというのだ。
「間に合ったかな」
「丁度よ」
時間にだというのだ。
「間に合ったわ」
「そう、よかった」
「それにしても教会からなの」
彼の家族の行きつけのだ、駅から結構ある。
「ミサが終わってすぐに来たのね」
「うん、急いだよ」
「みたいね、汗が凄いわ」
「じゃあ今から映画館行こうか」
彼は自分のハンカチで汗を拭きながら言う。
「そうする?」
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