日輪と真月編
彼の背に羽は無く、彼女の身は地に落ちて
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? 食事ってのは人を幸せにする一番の方法だし……記憶が戻って、君達が俺の事を気にせず幸せな時間を取り戻せるように出来たらいいなぁ」
優しい声音と微笑みを向けられて、熱が顔に昇ってきた。鼓動は速く、じわりと手に汗が染みて行く。
――この人は……前に居た別人の自分に不満も漏らさず、本当は自分も見て欲しいはずなのに、私達の事を思いやれるなんて……やっぱり秋斗さんなんだ。
無意識の内に、彼女は秋斗の片手を握った。
「どうした?」
きゅっと緩く力を込め、なんでもないと示すように頭を振って俯いた。
一つ二つと涙が零れる。前の彼を求めている自分達は、今の彼を傷つけていると感じてしまったから。
秋斗は何も言わず、ポケットから取り出した手ぬぐいで彼女の涙を拭った。
その手を繋いだまま、近くの茶屋に連れて行って出先の椅子に二人で腰を下ろす。彼女の涙が止まるまで、と。
暖かいお茶が二つ。いつの間にか秋斗が頼んでいたそれを受け取り、月はゆっくりと覗き込む。
「あんまり気にするなよ? それだけ想われてたってだけで今の俺の心も暖かくなるからさ」
「……でも、ごめんなさい」
一瞬だけ間を置いて、彼は優しいなと呟いた。後に、いつもの言葉を紡ぎ出す。
「クク、敵わないなぁ」
月はまた一つ、雛里の気持ちが分かった気がした。
その言葉は雛里から聞いていたモノ。偶に月にも零していたモノ。苦笑と共に紡がれたら、やはり前の彼とダブって見えて、きゅうと胸が締め付けられた。
幸せを感じている自分に気付いて、彼女は追い遣るようにお茶を啜る。
二人は無言でお茶を飲み続けた。しばらくして、彼と彼女はまた街を歩み始める。嘗ての自分を探して、平穏な一時を求めて、誰かの幸せを探して。
午後の昼下がり覇王の膝元。そこには黒麒麟も王であったモノもおらず、一人の男と一人の少女がいるだけだった。
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