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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十二話 国防委員長
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「計算したのですがざっと六百億ディナールが必要となります」
トリューニヒトとネグロポンティの遣り取りに彼方此方から溜息が出た。皆の視線がレベロに向かう。それを受けてレベロが口を開いた。
「ネグロポンティ国防委員長より話は聞いている。六月以降の暫定予算に組み込みたい。国のために苦労したのだ、報いるのが当然だろう。それに彼らを無一文で放り出せばそれこそ犯罪等の問題を起こしかねん。それでは捕虜交換の意味が無い」
皆が頷いている。ボローンが“全く同感だ”と言った。法秩序委員長としては治安の悪化は避けたいだろう。
「嫌がるかと思ったがね」
ホアンが冷やかすとレベロがフンと鼻を鳴らした。
「捕虜を抱えていれば彼らを喰わせるために年間約二百億ディナールの金が出て行く。三年で六百億ディナールだ、それを考えればここで捕虜交換のために六百億ディナールを用意するのはおかしな話じゃない。三年でペイ出来るのだからな。それに捕虜と違って労働力、消費者、納税者として期待出来る。財政委員長としては反対する理由は無い」
レベロが太っ腹なところを見せると彼方此方で同意する声が聞こえた。
「捕虜交換は財政問題か、確かに言い得て妙だな」
「全くだ。ここまで金が絡むとは思わなかったよ。人道も和平も金無しでは進まない、厳しい現実だな」
ターレルとボローンの会話に笑い声が起こった。俺が議会で捕虜交換は財政問題の解決策の一つだと言って以来、政府の公式見解は人道と財政問題の解決策になっている。和平なんてどこにも出てこない。冗談だったんだけどな。
ちなみに予算編成はまるで進まない。捕虜交換、首脳会談の成果次第で和平の進展具合が決まると見ているため誰も積極的に動こうとしないのだ。通常暫定予算は一カ月から二カ月だが今回は八月一杯まで、五カ月間を暫定予算で行こうという話になっている。前代未聞の事だそうだ。議会が突っ込みそうなもんだが議会も薄々は気付いているらしい、余り騒ぎ立てる事も無い。
皆が笑う中、ネグロポンティだけは神妙な顔をしている。トリューニヒトが皆に確認を取ったが誰も反対はしなかった。問題の一つが解決した。ホッとしたようなネグロポンティが俺に視線を向けてきたが知らぬ振りをした。ネグロポンティ、いやネグポン。俺を見るんじゃない、怪しむ奴が出るだろう。
俺はこの件では無関係なんだ。真っ青な顔で諮問委員会に飛び込んできて“思った以上に金がかかる。レベロ財政委員長を説得するのを手伝って欲しい”とか“トリューニヒト議長の手を煩わせたくない”とか“受け入れられなければ国防委員会や軍に面子が立たない”とか言って俺に泣き付くんじゃない。
レベロは金に煩いが本質は善良な男だ。金を払った方が利が有る、市民のためになると言えば渋るかもしれないが最終的には納得する。今回は
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