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高音
第四章
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ね」
 彼が引退してから語ったことである。
 彼は確かに色々な騒動を起こした。だがその裏にはこうした事情があったのだ。
 ニルソンもだ。その話を聞いてこう周囲に漏らした。
「そうよ。歌手は誰でもね」
「そうした悩みを抱えているんですか」
「誰もが」
「彼は特にそうだったのよ」
 コレッリ、彼と激突した彼のことも話す。
「華やかな世界に生きていてもね」
「華やかじゃなかった」
「そうだったんですか」
「華やかな世界にいても華やかに生きられるとは限らないわ」
 ニルソンは遠い目になってだ。こんなことも言った。
「それとこれとは別よ」
「つまり本人がどうできるかどう思うか」
「そういうことですね」
「つまりは」
「そうよ。華やかな世界でもね」
 拍手や歓声を浴びる歌劇の世界にいてもだ。そうだったというのだ。
 コレッリは常に悩んでいた。そしてそれ故に衝突を繰り返していた。遂にはまだ歌える状況で舞台も去ってしまった。このことにはこうした事情があったのである。


高音   完


                     2011・7・24

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