第一物語・後半-日来独立編-
第七十三章 終息へ向かう時《1》
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足元に現れた灯しの火を踏み、瞬間に王政の姿が残像を残さず消えた。
灯火-トモシビ-による脚部の強化である。
足場を踏み込み、前へと前進する力が数十倍にも跳ね上がり、常人ならば視覚困難の速度に達した。
王政はたった一踏みだけで、開いていた央信との距離を縮めてしまった。
●
僅かな時間に黄森の二人は最良の結果を残した。
まずは後から行動したのにも関わらず、見事に央信の元へと辿り着いた王政だ。
すくうように片腕を広げ、速度を殺さずに央信を回収した。
央信本人は自分へと近付いてくる王政を目で捕らえてはいたが、如何せん身体を支えるだけでも精一杯だったために人の手を借りる事態となってしまった。
「すまない、王政」
「別に謝んなくていいっすから。結局は黄森の負け、つまりオレ達覇王会面々にも責任はあるっす。一人で抱え込まないでくださいよ」
肩にぶら下がるようにして、背に顔を向けている央信は鼻で笑った。
これで黄森は長を遠く安全な場所へ運ぶことが出来る。忘れてはいけないが、まだ事態が解決したわけではない。
無事、王政が央信を回収した時。目の前の竜神へ打撃を放った玄次郎の拳がぶつかった。
体格差から見れば竜神の方が圧倒的だが、戦いにおいて体格差は誤差の範囲内でしかない。
むしろ玄次郎にとって体格の違いなど関係無かった。
表示された足場を滑るように、始めは玄次郎が押されていたが。始めは、の話しだ。
徐々に足場を滑る玄次郎が減速するかのように、滑りにムラが出てきた。
摩擦の強弱があるみたいに、ある場所では速く、またある場所では遅くを繰り返し、最終的には一寸たりとも動かなくなった。
「竜神はどんくれえの強さかなんて期待してたが、おいおい幻滅させんなよ。百メートルも進んでねえじゃねえかよ!」
他の種族と見比べて、体格の大きい玄次郎の腕は竜神から見れば小枝に等しい。
それなのにたった腕一本。小枝程度の太さの腕で止められた。
玄次郎が拳を放った竜神は本体の意思の一部でしかなく、本来の竜神とは力量に天地の差があるものの、人類にとってはそれでもかなりの強敵となりうる。
セーラン、繁真、清継。更に付け加えるのならば戦闘艦が相手になっても手を焼いたのがその証拠だ。
しかし今回竜神の相手になった玄次郎はたった一人で、竜神の進行を受け止めた。
まさに黄森を象徴する力であろう。
「活性化しちゃあいるが動きが野生の獣よりも下。馬鹿みてえに一直線に突っ込んでくる大馬鹿野郎だぜえ」
神を馬鹿にし、既に勝ったことを確信した玄次郎は右腕とは反対の左腕に力を込める。
右腕同様、力を込めた左腕が徐々に朱から黒へと変色していく。
陽炎が立ち初め、揺らぐのを確認すると。
「見せ場はテメエにくれてやるよ――」
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