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空を見上げる白き蓮 別事象『幽州√』
第一話 友を得る白馬
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らしに浸っていた現代人だからしてしまった過ちだった。誰かの矜持を穢す事は、その人物を否定しているという事。だから……俺は彼女に頭を下げた。

「頭を上げてくだされ」

 声と共に彼女の顔を見ると、何やら不思議な色を携えていた。多分、それは疑問。

「……この荒れた時代で旅をしていたというのに、あなたは本当に人を殺したことが無い、と? 武の腕は牡丹を退ける程だというのに」
「……無い」
「ならその武は……ただ自分を守る為に鍛え上げたモノで、襲ってきたモノからも逃げるだけだったと言うのか」
「あなたとは違い己が武に誇りは無い。必要だから持っている。ついでに言えば戦いすらほぼ経験が無い。ただの自己流だから師も無く、心構えも何も無い」

 言うと趙雲は呆れたようにため息を一つ。
 俺の胸はチクリと痛んだ。マガイモノの力ほど下らないモノは無い。何かを為そうと鍛え上げたモノならばよかった。しかし俺のこれは……この世界を変える為に与えられたペテンだ。
 これからずっとこの世界を変える為に嘘をつき続ける事になる。でも、それで世界が壊れないなら嘘つきを遣り切るしかないか。

「我欲の為に武を振るう、というわけでは無いようですが……些か腑に落ちませんな」

 なんとも煮え切らない、というような彼女の苦い表情を見て、俺は一つの名案が浮かんだ。
 誇りが無いなら作ればいい。少しでも彼女に近付けば、それだけで幾分かはマシになるだろう。なんせ、今の俺は徐晃なんだから。
 世界を変えるために以前の俺としての全てを捨てて、俺なりの徐公明を演じきってやろう。その為なら、彼女達のようなモノを目指す事が第一だ。

「ならさ、此処にいる間は趙雲殿が武人としての師になってくれないか? あ、特別何かを教えて欲しいってわけじゃないんだ。戦ったり、練兵したり、民を守ったりしている所を見せてくれるだけでいい」

 キョトンと目を丸くした彼女は、しばしの間を置いて吹き出し、腹を抱えて大笑いしだした。

「クク、あはは! あはははは!」
「な、なんか変な事言ったか?」
「ははは! いえっ……クク、自身の武に誇りが無いからと言って私に教えを請うとは……あなたは本当に武人では無かったようだ」
「ダメか?」
「私もまだ若輩者。誰かの師になる等出来ませぬ。まあ、見るだけなら構いませんが……ただの参考程度に留めておいてくだされ」

 ああ、そういうことかと納得がいった。ただでさえマガイモノなのに、究極の理不尽を強いる想いさえ偽物では……極悪人どころの話では無くなる。

「それは……人を殺す上での心の在り方の話だな?」
「左様。自身から捻り出てくる想いでなければ人殺し等もってのほか。しかし誇りを持ちたいと願うということは、徐晃殿は出来るなら人を助けたい善人
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