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渦巻く滄海 紅き空 【上】
三十三 崖底蛙
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聳える巨大な鉄格子。瞬間、射抜くような赤い双眸と目が合い、ビクリと身を強張らせる。
《お前の方からわしに近づいて来るとはな…》
「お…お前は、」
鉄格子、いや廊下全体がビリビリと揺れるような。底力のある声がナルの身体に大きく響く。格子に貼られた『封』の紙を目にして、彼女は前方に立ちはだかるその者が何なのか思い当った。

「――――九尾……っ!」

九尾の巨躯を前に、押し寄せる恐怖。それをぐっと抑えて、彼女は九尾を強い眼光で見据えた。
「お前、強いんだろ?だったら…じいちゃん蛙を助けられる力を貸してくれ…ッ!!」
《蛙…?そんなモノのためにここまで来たのか…?》
予想外の言葉に九尾は目を瞬かせる。理解し難いといった視線を向けられ、ナルは眉を顰めた。声を張り上げる。
「オレのせいで危険に晒されているのを、見過ごすわけにはいかないんだってばよ!!」
そう断言するナルを、格子を透かして九尾はじろじろと見やった。《人間は皆、自分の命しか大切にしないものだろおォオ》とまるで奇妙なものを見るようにナルを吟味する。
「そりゃ自分の命は大事ってばよ。でも勝手に口寄せしたのはオレなんだから、蛙のじいちゃんだって助けたいに決まってるってば!」
至極当然のようにきっぱりと答える。ナルの決然とした態度に、九尾は一瞬言葉を失った。

爛々と輝く青い瞳は、以前会った少年の姿を彷彿させる。ここでもし力添えを断ったとしても、ナルは決して諦めないだろう。
何があっても蛙共々生きてみせるといった固い信念。口先だけで終わらせるつもりはないといった強い意志。
小さなその身がどこか大きく見え、九尾は口角を吊り上げた。

《ククク…ッ、グワハハハハハハ!!》

突然の哄笑にナルの小柄な身が吹き飛びそうになる。足を踏ん張ってその場に留まる彼女の姿を、九尾は愉快げに眺めた。
《面白い。自分も蛙も助かりたいか。実に人間らしい勝手な言い分だ…!》
一頻り笑った後、鉄格子の合間からチャクラのみを引き渡す。真っ赤に燃える赤きチャクラがナルの身を捉え、螺旋状に渦巻いていった。


《―――だが、気に入った》
刹那、ドクン、と再び心臓が高鳴った。










煙が立ち上る。
崖上まで昇る【口寄せの術】の白煙を、彼はじっと俯瞰していた。
やがて晴れゆく煙と相俟って、自来也の目が信じられんとばかりに大きく見開かれる。

「おいおい…。まさかガマブン太だけじゃなくあのお方まで呼び出しちまうとは…」

驚愕を孕んだ声を漏らす。彼の眼下には自らの躯を活かして落下を食い止めるガマブン太の姿。
そしてナルの腕に抱えられた…自来也の師であり二大仙蝦蟇の一人―――フカサクの姿があった。

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