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剣の丘に花は咲く 
第三章 始祖の祈祷書
第八話 伝説
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号を落とすことなど出来はしない。

「艦速全速前進。左砲戦準備」

 しばらくすると遥か眼下に、タルブの草原の端向こうに、周りを岩山で囲まれた天然の要塞。ラ・ロシェールの港町に布陣したトリステイン軍の陣容が浮かび上がる。

「艦隊微速。面舵」

 艦隊はトリステイン軍を左下に眺めるかたちで回頭した。

「左砲戦開始。以後は別命あるまで射撃を続けよ」

 そして、

 「上方、下方、右砲戦準備。弾種散弾」

 これから来るだろう“英雄”に対する命令を追加した。





 ラ・ロシェールの街に立てこもったトリステイン軍の前方五百メイル、タルブの草原に敵軍勢が見えた。三色の“レコン・キスタ”の旗を掲げたアルビオン軍だ。軍勢は静々と行進してくる。
 生まれて初めて見る敵に、ユニコーンに跨ったアンリエッタは怯え震える。その怯えからくる震えを周りに悟られないよう、アンリエッタは目を瞑り軽く祈りを捧げる。
 だが……祈りは届かず、敵軍の上空に大艦隊を見つけたアンリエッタは、さらなる恐怖を感じ顔色を変えた。アルビオン艦隊の舷側が光ったかとアンリエッタが思うと、アルビオン艦隊から放たれた砲弾が自軍めがけ飛びこんだ。
 着弾。
 何百発もの砲弾が、ラ・ロシェールに立てこもったトリステイン軍を襲う。
 岩や馬、人がまとまって吹き飛ぶ。圧倒的な力を前にした味方の軍が浮き足立ち、周囲を轟音が包む。
 恐怖にかられ、アンリエッタは叫ぶ。

「落ち着きなさいッ! 落ち着いて!」

 叫ぶように指示をするアンリエッタに、近づいたマザリーニが耳打ちする。

「まずは殿下が落ち着きなされ。将が取り乱しては、軍は瞬く間に潰走しますぞ」

 近くの将軍達と素早く打ち合わせたマザリーニが、兵力比におけば各国の中で一番多いメイジを使い、岩山の隙間の空に、いくつもの空気の壁を作り上げた。砲弾がそこに当たると砕け散る。だがやはり、何割かは飛び込んできてしまう。そのたびにあちこちで悲鳴が上がり、砕けた岩と血が舞う。
 それを見たマザリーニが隣のアンリエッタに声をかける。

「この砲撃が終わり次第、敵は一斉に突撃してくるでしょう。とにかく迎え撃つしかありませんな」
「勝ち目はありますか」

 砲撃により兵の間に同様が走りつつあるのを見たマザリーニが、溜息をつく。
 勢い余って出撃したはいいが……人間の勇気には限界がある。
 しかし、忘れていた何かを思い出させてくれた姫に現実を突きつける気にはなれなかった。

「五分五分……といったところでしょうな」

 アンリエッタは口元を噛み締める。
 着弾。
 周囲が地震が起こったかのように揺れる。
 痛いぐらいにマザリーニは状況を理解していた……アンリエッタもだ。

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