第五十四話 思春期G
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アリシアはぽつぽつと、最初は遠慮がちに口を開いた。だが、一度言葉を紡いでしまうと、まるで蛇口の口を捻るようにどんどん言葉が溢れていった。
兄と一緒に魔法を習って楽しかったこと。管理局のお姉さんに教えてもらったこと。クラナガンに引っ越したこと。友達ができたこと。学校に通うことになったこと。妹ができて嬉しかったこと。2年生になって魔法の実技が始まったこと。自分には魔法の才能がなかったこと。そして。
「それで、お母さんにどうして魔法が使えるように産んでくれなかったの、……って言っちゃった」
「うん」
「私、わかっていたのに。誰も悪くないんだって。お母さんの所為じゃないって、わかっていた。お兄ちゃんだって、ずっと頑張っていたことを知っていたのに。コーラルに勉強で泣かされていたことも、お母さんが魔法には意外にスパルタで、いつもものすごい悲鳴をあげていたことも知っていたのに」
「う、うん」
さらに父親から、参考書やら問題集やらを大量に送られ、絶叫していたことをアリシアは知らない。
「私だけ、魔法が使えないことが辛かった。みんなと同じことができなくて、悔しかった。羨ましくて、悲しくて、私だけ置いて行かれるような気がして……寂しかった」
あぁ、そうなんだ。アリシアは自分の思いを語ることで、少しずつ自分自身を見つめ直していった。私が魔法を求めたのは、寂しかったからなんだと気付けた。友達と一緒に、魔法の成功を喜び合うことができない。兄と一緒に、魔法の勉強を続けていくことができない。その所為でみんなに置いて行かれて、1人ぼっちになりそうなことが、怖かっただけなのだ。
自分の言葉を聞いてくれる大きな温もりと、隣で自分を抱きしめてくれる小さな温もりが、ちゃんと自分はここにいるのだと感じられた。プレシアが言った覚悟を、アリシアは思い出す。自分が一番大切にしたいものが、わかったのだ。アリシアは、ようやく「自分」を見つけられた。
そして―――彼女は、そっと瞼を閉じる。暗闇の向こうで、小さく輝いていた光を静かに閉じる。それが、彼女の見つけた答え。アリシアは、リンカーコアの手術を受けないことを選んだ。
「ありがとう、おじさん。私は、もう大丈夫だよ」
「……私は、君の話を聞いただけだよ」
「聞いてくれたから。受け入れてくれたから、嬉しかったの。私、ようやく私を見つけてあげることができた。……受け止めてあげることができたよ」
強く、はっきりとアリシアは口にする。
「私は、魔法が使えない。それはどうしようもないことで、仕方がなくて。なんでって思いもした。だけど、私は魔法のために他のものを差し出せない。魔法が使える私よりも、今の私を捨てたくない」
アリシアは1つずつ言葉にしながら、決意を固めていった。踏
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