暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第5章 契約
第89話 吸血鬼伝説
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に立つ少女の黒髪が彼女の周囲に突発的に発生した上昇気流で揺れ動いた。
 ……成るほど。

「ライオンや豹は話や本の挿絵。それに、猛獣使いの芸で実際に目にした事も有る」

 俺の意味不明の問い掛けにちゃんと答えを返してくれるタバサ。
 まして、そのライオンや豹はエルフの支配する国には当たり前に生息している猛獣のはずです。
 地球世界とほぼ同じ生物が暮らして居る世界だと思いますから。このハルケギニア世界も。

 そこまで答えてから一度呼吸を整えるタバサ。彼女の吐き出した小さなため息が、冬の属性の大気に触れてその口元を微かに白くけぶらせる。
 そして、

「でも、ジャガーと言う猛獣は、わたしの知識には存在していない」

 ……と、予想通りの答えを続けるタバサ。
 成るほどね。おそらく、ひとつ呼吸を入れたのは、彼女もこの答えが俺の判断に重要な情報と成る部分だと判ったと言う事なのでしょう。
 それに、先ほどのブリギッドと風の精霊王の様子なども有りますから……。

 尚、ジャガーとは当然、あのジャガーの事。地球世界の南米に生息する大型のネコ科の肉食動物の事です。そして、清教徒革命の時代に何故か大航海時代が訪れていないこのハルケギニア世界には、南米にのみ生息するジャガーは発見されているはずはなく、博識のタバサでさえ知らない生物だと言う事になって居るのでしょう。

 それならば。

「このルルド……ガスコーニュと言うガリアの田舎に住む人間たちに取って、ライオンなどのネコ科の大型肉食獣は未知の存在。そんな猛獣の声が森から聞こえて来たとしても、その正体は判らないはずやな」

 誰に問うでもなく。しかし、かなり明確な方向性を持って、この推測を口にする俺。
 但し、これはその証言の中の『聞いた事のない猛獣の声』と言う部分だけから導き出した答えでは有りません。その部分だけでは、ここまで明確な……。まるで、今回の事件の黒幕の正体が判って居るかのような推測を口にする事は出来ませんから。

 ただ……。
 俺は、俺の顔を真っ直ぐに見つめる蒼い瞳を覗き込んだ。

 そう。毎度の事ながら、俺の行く先に用意されている事件の――
 彼女の表情を形作る上で重要なパーツと成って居る硝子越しに、蒼い瞳……人に因っては、やや冷たい瞳と表現される瞳で俺を見つめて居た少女がゆっくりと、そして小さく首肯く。
 これは……。

「大丈夫。わたしとあなた。ふたりならば出来ない事はない」

 感情と言う物をそぎ落とした彼女ら独特の口調が、俺の心の弱い部分を貫く。
 いや、彼女の心が動いていない訳ではない。彼女は何故か、自らの感情を表に現さないように振る舞っている、……と言う事。
 今回の台詞にしても、彼女の考えて居る事は痛いほど伝わって来てい
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