〜幕間〜 白き蓮に休日を
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矢。矢じりが無くとも目に当たれば失明は確実で、守られている他の部位でもある程度の痛みを受ける事になる。
――そこまでするのか……まあ、戦場で指揮官を狙う矢なんかは日常茶飯事だし、避ける練習にもなるから必要なことか。あの速度なら落ちても大きな怪我はしないしな。
秋斗個人の実力を知っている為に、最悪の場合は馬から落ちて避けるだろうと思っていた。
しかし何故か、秋斗の動きが少しだけ良くなった。剣を振り、馬上であるにも関わらず矢を切り払ったのだ。
「なんでっ! なんでお前はそんな難しい事が出来るくせに馬の扱いは下手なんですか! 訳が分かりません!」
星と私は驚愕にあんぐりと口を開けはなって二人を目で追っていった。後に、口元を引き攣らせて星が言葉を零す。
「……戦うことだけは出来るように見えますな」
「ああ、なんか変だと思ったら違和感の原因はそれか」
星の一言は私の疑問を大きく取り払った。
秋斗は馬の扱いは下手でも、こと戦闘に関してだけ意識を尖らせられるようだった。馬上に於いても秋斗個人の戦闘能力だけは変わらない、ということ。
自分に殺意や敵意を向けられると動きが良くなるのなら、きっとこれから戦を経験するに連れて伸びて行く事だろう。
そこで私の心にもやが掛かった。
――秋斗を此処に留めておけたなら私が直接指導してやれるのに。
ふるふると頭を振って思考を追い遣る。
秋斗は桃香の部下であり、さらには幽州だけを守ろうとするような奴ではない事を理解している。私は此処を守れたらそれでいいから、誘ったとしても秋斗は残ってくれないだろう。
野心、というには透き通りすぎている想いを持っているあいつは、何処か桃香に似ていると私は最近感じていた。
大きく変わったのは初めての賊討伐の後。それ以降、前以上に積極的に私の仕事を手伝ってくれるようになり、私も頼る事が増えた。あいつはあの時から桃香みたいに人を助けたくて仕方ない奴になったんだ。
――曹操みたいに上層部の腐った部分を大きく変えられるようなら、上に上り詰めようという野心を持ったなら、大陸全てを救いたいと身に余る理想を持てたなら、あいつは此処に居てくれるんだろうか?
自分がそのようになるとは想像も出来ず、やはり私はこの地を守りたいだけなんだと再確認して、あいつに残ってほしいというわがままを抑え込んだ。何より離れたくらいで壊れる絆では無くなった事を知っているから。
隣をちらと見やると、星は少し寂しそうに秋斗を見続けていた。
その感情は何時か此処を旅立つあいつに対しての淡いモノである事が想像に難くない。
いつも一緒に、まるで私の正式な部下であるかのように二人は仕事を手伝ってくれて……そんな中で星は友達以上の心を持ってしまったんだろう
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