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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十七話 憂鬱な人々
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りは役に立たなかったようだ。ヤン・ウェンリーがハイネセンを攻略したらしい、犠牲者は殆ど無かったと聞いている』
「ヤン・ウェンリー……、エル・ファシルの英雄ですか」
ざわめきが起きた。ヤンの名前にか、それとも犠牲者が殆ど無かった事に対してか。
『どうやらエル・ファシルの奇跡はまぐれではなかったらしい。ヴァレンシュタインだけでも持て余しているのに厄介な事だ』
確かにその通りだ。オフレッサーが不機嫌なのはその所為かもしれない。ヤン・ウェンリーか、あの当時は面白い男が居るものだと思ったが面白がってばかりも居られなくなった。
『ヴァレンシュタインはクーデターが起きる事を想定していたようだ。予め二個艦隊をハイネセンの近くに戻していた。レムシャイド伯からの報せだから間違いあるまい。可愛げの無い奴だな』
オフレッサーが鼻を鳴らした。気持ちは分かるが頼むからそれは止めてくれ。うつりそうで怖い。
「隙を見せて暴発させた、そんなところですか」
『そのようだ』
「クーデター勢力はアルテミスの首飾りを頼りにしたのでしょうが……」
『意味が無かったな』
またオフレッサーが鼻を鳴らした。最近ではリューネブルクも同じような事をするようになった。次は俺かもしれない、悪夢だ。
ヴァレンシュタインから見ればクーデター勢力がアルテミスの首飾りを当てにするのは見えている。反乱を長引かせ同調者を増やす、そんなところだろう。それが潰えた、そしてあっけなく鎮圧された。クーデター勢力はハードウェアに頼り過ぎたな、難攻は有っても不落は無い。帝国もイゼルローン要塞に頼り過ぎるのは危険だ。それにしてもどうやってアルテミスの首飾りを攻略したのか、知りたいものだ。
『同盟の混乱は終結した。トリューニヒト議長は和平を唱えているが油断は出来ん。国内が混乱していれば何かと不利に働くだろう。足元を見られて和平の条件そのものが厳しくなる可能性もある。平定を急いでくれ」
「はっ」
『イゼルローン要塞に送り届けられた貴族達はマリーンドルフ伯を除いて全員自裁した』
オフレッサーの言葉に艦橋の空気が強張った。自裁とは言っているが実際には強制だろう。自ら死を選ぶのなら捕虜になることなくフェザーンで死んだはずだ。
「その中にはフレーゲル男爵、シャイド男爵も居るのでしょうか?」
『リューネブルク、例外は無い』
オフレッサーの答えに皆が顔を見合わせた。
『これで抵抗している連中も諦めるだろう。平定も楽になる筈だ、頼むぞ』
「はっ」
「ブラウンシュバイク公も非情の決断ですな。あの二人を切るとは」
ケスラーが嘆息したのは通信が切れた後だった。俺も多少の驚きは有る、シャイド男爵は知らないがフレーゲル男爵に対するブラウンシュバイク公の扱いは良く知っている。息子の様に扱っていた。
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