〜幕裏〜 彼の間違い
[5/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
来る。怯えるように首を左右に振り続ける彼を見て、牡丹は涙を幾多も零し始めた。
「なぁんだ……そんなくだらない事の為に……私は見捨てられたんですか……」
泣き笑いの顔を向けられて、引き裂かれるような胸の痛みは増していく。彼の心はボロボロと壊れて行く。
「未来を知ってたなら、私と白蓮様を助けられたはずです。あの時秋斗だけでも居てくれたら、私達の平穏は守られたんですよ」
牡丹の言葉は秋斗の胸を抉っていく。
何度も白昼夢で見た姿がそこにあった。だから……彼は一番してはいけない事を零してしまう。
「すまない……ごめん……俺はお前達を助けに行けたのに……」
諦観した相手への懺悔だけは、絶対にしてはいけないこと。自分が救われたいだけの自己中心的な発言であるはずなのに、彼は己が罪過に耐えきれずに零してしまった。
「謝罪なんかいらないんです! 私達はあの時助けて欲しかった! 私は……もう死んでるんです! 白蓮様に会えないんです!」
泣き叫ぶ声は秋斗の思考を掻き回していく。
突然、牡丹は秋斗を突き飛ばした。
「お前はっ……白蓮様や星と戦おうとしていますね!? 私が命を賭けて助けた大好きな白蓮様を、お前を想ってくれる友を殺そうとしていますね!? 曹操の元へ行くのはそういう事ですよ!? いえ、劉備の元に戻ってもそうなるんですよ!」
間違いに気付いたとしても、彼は白蓮と戦わなければならない。牡丹が全てを投げ捨てて命を繋いだ白蓮や星と戦い、殺さなければならない可能性さえあるのだ。
既に固めていた決意を見抜かれて、秋斗の意思は乱れて行く。
立ち上がれない秋斗の前に立った牡丹はその頬に手を添えた。
「ねぇ……白蓮様を守ってくれないんですか? 夜天の願いを叶えないんですか? 今までの全てを無駄にしちゃうんですか?」
牡丹の想いを繋ぐなら、白蓮と戦う事は許されない。
繋げない想いを提示されて、彼の崩れている心はさらにひび割れて行った。正常な判断も、通常の決断も下せない程に。
「お、俺は……白蓮を……」
そこに、指を鳴らす音が響き渡った。
白の世界は黒一色に塗りつぶされて、その場に大勢の人影が現れた。
それらを視界に映した秋斗の思考は真っ白に染まる。
「……お前ら……」
緑の鎧、不敵な笑み、漆黒の旗……彼が作り出してきた自分の身体がそこに居た。
「……御大将……あんたは俺らの想いを繋ぐんだろう? 今、なんて言おうとした? 公孫賛様を守るってか?」
一番隊隊長が告げる。
逃がすわけが無いというように。妥協は許さないと言うように。
「くっくっ、勘違いで俺らは死地に向かわされたんだってよ」
「無駄死にってぇわけだな」
「信じてたのに……
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ