忘却の花冠
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「うん、それは大丈夫。今朝もお兄ちゃんが作ってくれたポトフとパン食べたし」
食欲は以前と変わらずあるのよねと言い、腹に掌を乗せ同じくため息を吐いた。
通常ならともかく、ベッドに横たわっている今でさえ同じ量を求める胃袋が憎い。
厚手のネグリジェの上から触った手には以前のものより弾力を帯びているように感じる。
「それなら良かったわ」
「良くないよっ!…ごほっごほっ」
「ほら、急に大声出すからよ。私、リンゴを持ってきたからちょっとキッチン借りるわね」
ごめんねと、一言謝り再びベッドの中へ深く潜る。
いつまでこの状態が続くのだろう。
最近その事が不安で、なかなか寝つけられない時はつい考えてしまう。
この症状に襲われてから一ヶ月、個人差はあれど普通風邪ならば長くても一週間くらいで治る。
(何か他に悪い病気にでも罹ったのかな?)
はあと、自然に深いため息が出る。
…コツッ。
「えっ…」
今、何かが軽い音を立てた。
…コツンッ。
今度は先程よりも少し大きい何かが跳ねたような音がした。
「窓の方からだっ」
鈍く疼く頭の痛みに堪えながら赤いガウンに袖を通し、厚いカーテンとそれを気だるそうに開けたその目にまず映ったのは…。
「や、やめて!やめて!それ窓割っちゃうから!!」
3月下旬にしても尚残る雪の上には、アレ以来ぶりである少年がこぶし大ぐらいの氷を今まさに彼女の部屋目掛けて投げつけようとしていた。
「ルヴァーナが早く出てこないのが悪いんだよ」
「あの、知ってます?私、病人なんだけどっ」
「しっ、それ以上大きな声出さないでよ」
丸無視された方は思う所があったが、以前のように向こうのペースに乗るわけにはいかない。
額に軽く指を添え、平常心平常心と念じる。
相手は年下だ、親友や同窓生たちと同じように接しては何だか負けな気がした。
そんなことには無頓着なのか、または端からそれが目的なのか、コンラッドは木の枝で地面に書いた文字を読めとばかりにこちらへと視線を向けてくる。
『話がある。二十二時、あの花畑で待ってる』
『私、病人なんですけどっ!』
勝手に話を進める彼に負けじと幼い頃大切にしていた画用紙を取り出し、ほんの少ししか残っていない赤いクレヨンで大きく文字を書いて見せたがまたもや丸無視され、ブーツの底でそれを消すと何事もなかったかのようにスタスタと歩いて行ってしまった。
その場に残された彼女は一瞬呆気にとられたが、風に煽られると身震
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