彼女は雛に非ず
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下げた。感謝と謝罪と決意を込めて。
雛里は天幕から出て行く華琳の声でその背を追いかけはじめていたが、ピタリと脚を止める。
「劉備さん、愛紗さん、朱里ちゃん……今までありがとうございました。最後に一つ言っておきます。秋斗さんは華琳様の在り方を知っていて尚、劉玄徳が大陸を治める事を望んでいました。彼がこれからもあなた方を信じつづけるその時は……全てを賭けてあの人を私の元に取り戻しますので」
感情を挟まない軍師の声音で己が見解を示し、そして思い出したかのように朱里に近付いて耳元で囁く。
「秋斗さんは私を愛してるって言ってくれたよ。だから私は自分の想いを返した。
裏切ってごめんね朱里ちゃん。でも欲しかったら……力付くで来て。取られたとしても私は何も言わない。どんな事になっても、私はあの人が幸せならそれでいい」
茫然と、朱里は顔を俯けたままであった。
雛里の言葉は頭に取り込めても、心が拒絶していた。
しかしゆっくりと……自身の欲も、感情も、想いも、頭脳も……全てに於いて敗北した事を噛みしめていく。
身体を離した雛里はもはや誰にも何も言わずに華琳の後を追っていく。桂花の隣に並び立ち、曹操軍の新たな軍師として歩みを進めて行った。
残された者は絶望の中、ぽつりと零された一つの呟きを聞いた。
「……ごめんなさい」
†
桂花と季衣も真名を交換し、徐州に分散させた徐晃隊の情報と扱い方、本城で行った策を歩きながら説明されて華琳も桂花も季衣も、驚愕に支配されていた。
まず一つ。徐晃隊がたった二千と数百で二万の包囲網を抜けてきたという事実。敵が使ってきた奇策があったというのに、大打撃を与えて生き抜いた事が異常であったのだ。
雛里は敵が秋斗によって壊滅させられたとは知らない為に、徐晃隊と彼の連携で追い払えたのだと説明していた。
「彼が描いていた対価は以上です。曹操軍の練度と連携ならば、早期に袁紹軍のみ徐州から追い遣る事は出来るでしょう。華琳様は曹操軍のみで両袁家と戦う……つもりは無いと予測しておりますが如何ですか? 例えば孫策軍と密盟を結んでいる、とか」
近くにいる者にしか聞こえない声音で思惑を言い当てられて、これから行おうとしていた全てを示されて、桂花はふるふると身体を震わせる。鳳凰と黒麒麟の先読みに恐怖が刻まれた。
「……徐晃の持ち出してきた対価は想像以上ね」
素直に褒める華琳の言葉は……兵の被害を減らし、徐州を迅速に平定する為に最良の一手を打てる事を対価にしてきたから零れたモノ……では無く、それを含めて彼が自分を裏切るつもりだったと考えて。
「初めから私達は孫策軍を袁術軍に当てるつもりでした。あちらと交渉する準備も整えていましたし、孫権さんを見逃し
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