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乱世の確率事象改変
彼女は雛に非ず
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解して、最後に一人でも自身の国の民を救うために選択した。
 目の前で死に行く人の多くを見捨てて、先の世の人が救えるとは桃香には思えなかった。力は使える範囲でしか使えない。だから彼女は人に説いているのだ。先の世を良くする為に皆で今を大切にしましょう、守り抜きましょう、良くし合っていきましょう、と。
 手を繋ぐ事が出来れば平和になる。それは民主主義の根幹にあるモノと似ていた。上に立つ多くのモノが手を取り合って世界を良くしていくその姿は、この時代では異質にして異常。
 だから華琳は釘を刺したのだ。桃香の目指す所は漢の再興、と。
 異質な価値観がこれ以上広がりすぎないように先手を打った。再興という形ならばどの権力者にも受け入れられるが為、そして曖昧であれど天下統一のカタチとする事で大陸内部が分裂して同盟で終わるという……先の世の平穏を願う華琳にとって最悪の事態になる事を避けさせた。
 桃香は思想家。専制政治の儒教社会で民主主義を説く異端。世界の価値観を壊す事の出来る存在。その思想は猛毒であり霊薬。
 単純に目の前の人を救いたくて、その輪を広げて行きたいだけ……しかし周りが思う事は違うのだ。甘いように見えて恐ろしく厳しい。新しいモノを受け入れさせるという事は、古い概念を否定して追い遣る事と同じなのだ。
 本来ならば、秋斗はその全てを根本から理解して先を示す事が出来た為に桃香にとって一番の理解者と言ってよかった。それを長い期間を掛けて大陸全体に浸透させる事こそが彼の目的の一つではあったが、哀しい事に彼と桃香の進む道筋は違った。
 桃香はそれほど頭脳明晰でも無く、武の才に明るいわけでも無い。秋斗の事は自分と同じだと信じていたからこの結末となった。
 足りなかったのは仲間の把握。平穏な世界を目指す上で、どういった道筋を辿ればいいか、どのような世界を作りたいかを具体的に全員で話し合ってこなかった。秋斗という自分とは全く違う道筋を辿りながらも同じ世界を目指している仲間をよく知らなかった。ただそれだけのこと。
 桃香が敵である事を再確認した華琳は、沈んだ表情ながらも意思の光を宿した桃香の目を見据えて呆れたようにため息を一つ。

「あなたの作ろうとしてる未来は私の目指す未来よりも困難ね。今回の事で一歩進んだとしても、乱世の果てに作られた最後で初めてその本当の難しさが分かるでしょう」
「難しくても、何が何でも私は作り出してみせます。その為に、あなた達にも協力して貰いますから。交渉ありがとうございました。曹操さん、鳳統ちゃん」
「どういたしまして。また会いましょう劉備、乱世の果てに」

 どちらもが放った声は突き放すようにも、受け入れるようにも聞こえた。桃香は朱里のように縋る事をせず、雛里の覚悟を貶める事もせず、ただ自身の嘗ての仲間の選択を受け入れて頭を
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