彼女は雛に非ず
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を跳ね除けた。誰にも触らせないというように。己の敵だと示すように。
時が経つにつれて静かに、嗚咽へと変わっていく声。その少女は大きく息を付いて自身を落ち着けて行く。十数回の呼吸の後、彼女は一つ目を瞑って華琳の方を向いた。
開かれた瞳に見据えられて華琳はゾクリと震えが走る。冷たく、極寒の冬を思わせる冷徹な瞳に吸い込まれそうになった。気圧されたわけでは無く、ただその者が欲しいと思った。
「曹操様。私は劉備軍の軍師です。交渉の場に間に合わなかった身で厚かましく思います。しかし私の見解から個別に案を出したいのですがよろしいでしょうか?」
愛らしい少女の声ながらも有無を言わさぬ響きを感じて、桃香も愛紗も朱里も……三者三様に顔を絶望に染めて行く。華琳が提案した通りになったのだから当然でもあった。もはや雛里は桃香の臣では無いのだ。愛する者を救いたいと願うただ一人の少女……でありながら、敵に対して冷酷にして残忍、他者を利用して己が掲げる王の為に動く本物の軍師であった。
「……既に終わった話だけれど、聞くだけ聞いてあげましょう」
劉備軍、と言い切ったのだから華琳は桃香達に何も言わせない。覇気溢れさせ、鋭く三人を見回す事によって言葉を挟ませないと暗に示す。
――この交渉は鳳統と私だけのモノ。出来るなら徐晃と対等な立場で交渉がしたかったが、あれだけあの男を想っている彼女ならば問題は無いか。
悲痛な叫び声、慕う男に縋りつく姿を思い出して、華琳の心には一寸だけ羨望が湧いた。自身の心に気付かぬはずも無く、これは弱さだと切り捨てるように小さな自嘲の笑みを零した。
「私が曹操軍に入ります。忠誠も誓いましょう。劉備軍が通行する為の対価に足りますか?」
華琳はにやけそうになる口元をどうにか気力で抑え込む。雛里まで手に入るとは思っていなかったのだ。少なからず秋斗の影響を受けていようとも、理想の妄信から冷めているはずが無いと思っていた。だから彼女本人から直接示されて歓喜が込み上げるのも詮無きこと。
桃香と愛紗が何か言おうとしたが、華琳が再び睨みつけると二人は口を噤む。朱里はその隣で力無くへたり込んだ。
「……残念だけれど我が軍は最近有能な軍師が増えた。あなたの活躍する機会はもうあまりないわ。早期で忠誠を証明するのは不可能ね。それに今、最も私が欲しいのは優秀な将。あなたの身柄一つではこの乱世での対価に足りえない。それに、元から私は徐公明と公孫賛を欲していたのだから一人というのも割に合わない」
それは探り。華琳にとって、劉備軍通行の対価が雛里で足りないわけがない。
差し出されるモノを出来る限り吊り上げる為に少しだけ彼女の事を貶めた。強く言い切ると雛里は一瞬だけ斜め上に目を向け、直ぐに華琳と目を合わせた。その一瞬で華琳
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