第5章 契約
第88話 カトレア
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は慌てて周囲の確認を行う……などと現実逃避をしても意味は有りませんか。
何故ならば、先ほどの声は足元。俺の事を見上げている、食肉目ネコ科の白い小動物の口から発せられたのは間違い有りませんから。
ただ、彼女の口の動き自体が、確かに聞こえて来た言葉通りの動きをしたのか、それとも、別の言語で語られた言葉を、俺の脳が自動的に翻訳したのかは定かでは有りませんが。
「ね、猫……猫が喋った?」
しかし、俺が反応を示さず、一瞬、思考の海に沈み掛けた事による空白に、村長さんのかなり上ずった声が響く。
この瞬間に、俺の足元から見上げている白猫が、村長さんの分かる言語。つまり、ガリア共通語で話して居る事が理解出来た。
もっとも、そんな事は別に重要な事ではないのですが。
「もし、そのハクと呼び掛けた相手が私ならば、それはおそらく人違いですよ」
一応、そう礼儀正しい態度で答えて置く俺。もっとも、猫を相手に返す人間の答えとしてはあまりにも落ち着き過ぎた答え方。更に、その場で腰を抜かし掛けた村長さんを左腕で支えながらの、非常に冷静な態度。
ただ、普通の人間の反応から言うのならば、この場合は村長さんの態度の方が正しくて、俺の対応は不自然だったでしょうね。それぐらい、普通の人間の感覚からすると、猫が喋り出すと言うのは異常事態のはずです。
しかし、俺に取っては……。
先ず、人語を解す猫、と言う存在に出会ったのが、俺の長くはない人生の中で一度や二度の出来事では有りません。西洋の伝説に有る猫の王と言う存在に事件解決の助力を乞うた事も有ります。それに今回の場合は、扉を開いた瞬間に感じた違和感と言う前兆が有りましたから、それほど慌てふためく理由は有りませんでした。
まして、落ち着いた態度でこの異常事態を処理して見せる事が出来れば、見た目の年齢から来る頼りなさを払拭して、村長さんと、そして、俺の事を見上げている白猫姿の何モノかの信頼も得やすいはずです。
こんな場面で醜態を晒す訳には行かないでしょう。
「なんやハクやないのか、坊主は。せやけど、ガリアの世嗣で有るのは間違いないんやろう、崇拝される者」
ちゃんと前脚をそろえた形でお座りをし、後ろ足で耳の後ろを掻きながら、俺の後ろに立つ黒髪の少女に問い掛ける白猫。
……と言うか、崇拝される者を知って居る猫?
「それだけは間違いない、風の精霊王。こいつは、ドーファン・ド・ガリアの名を継ぐ者」
俺の背後から斜め前に一歩踏み出す事に因り、タバサと俺の間に入り込んだ崇拝される者ブリギッドが答えた。
しかし、この目の前に居る猫が風の精霊王?
そう訝しく思いながらも見鬼を行う俺。確かに白は、東洋では風を意味する色と成るのですが。
………………。
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