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乱世の確率事象改変
彼は一人、矛盾の狭間にて
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 星の瞬く夜天の下を駆ける月光は風となっていた。単騎で駆ける最短経路は予定していた軍でのモノとは違い荒かったが、幾刻の時間短縮を可能にしていた。
 休息は幾度となく取っている。それが終わる度に、彼の相棒たる月光は全力で駆け続けていた。彼が少しでも遠くへ行けるように、自身に跨る価値のあるただ一人の者が助かるようにと。
 その背で、秋斗は雛里に少しだけ寄り掛かっている。少しの申し訳なさを感じつつも、己より非力な相手に頼る事に恥は無く。血を失い、落ちてしまった体力を少しでも温存する為に。野盗が出ても対処出来るようにと。
 雛里はその愛しい重みを背中に感じながらずっと思考を回していた。
 交渉に間に合わなければいい……それが一つ。
 彼が交渉に間に合わなければ、朱里の思惑通りに進んで全てが上手く行く。雛里にとっては、の話であるが。
 思考に潜り始めて直ぐ……秋斗があの時、口付けを交わして想いを伝え合う前に言っていた事を雛里は思い出していた。

『いいか? 曹操は……俺達に対して自身の領の通行許可を出す事もあるんだ。同盟では俺達の利が大きすぎるし先手を許す事になる。だから曹操は自らが主導権と先手を握る為にそれを提案する確率が高い。
 その時の対価として俺含めた幾人かを求められたなら俺一人だけで行けるように手を打った。祭りで袁紹軍の主要人物を縛り付け、徐晃隊を伏せさせたのはその意味もあるから。曹操軍の練度なら俺の率いる徐晃隊と上手く連携が取れるだろうよ。
 そして……河北を曹操が手に入れたなら、俺が白蓮の代わりに幽州を治めに行けるよう画策する。あいつに返せるのはそれくらいだ。桃香が天下を統一して白蓮が帰ってくるまで少しでも良くしておきたいんだ。クク、最後に……俺は曹操軍を絶対に裏切るよ。大局の一番重要な局面で必ず、な』

 頭に響く穏やかな声が反芻されて、雛里の胸に込み上げてくるのは悲哀だった。
 そんな事をすれば彼がどうなるか、この世界の誰よりも時間を共に過ごしてきた彼女に分からないはずが無かった。
 思想も、掲げるモノも、進む道筋も同じである曹操の元で長い期間耐え忍ぶなど……どれだけのモノを跳ね除けなければいけないのか。
 大きな信頼と力を得る為に絆を繋ぐ事は間違いない。友は自然と出来てしまうだろう。もしかしたら……彼の事を慕い、想いを告げる女性も出てくるかもしれない。
 否、曹操ならば、彼の臣従を嘘と看破し、彼自ら裏切りを行う事を妨害する。戦場を共に駆ける戦友や平穏な日常を感じさせる友と言ったモノを作るように思考誘導し、そういったあらゆる『善良な』手段を駆使して秋斗を留めようとする事は想像に難くなかった。
 暖かくて残酷な鎖を幾多もつけられた状態で、一番同じような存在である、既に求めてしまっている曹操自体を裏切るなど……どれだけの
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