彼は一人、矛盾の狭間にて
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物が足りなかったわ。劉備軍としての表の顔は見せて貰った。なら……裏の顔はどうかと言っているのよ」
劉備軍である三人はその言葉に信じられないというように首を振るだけであった。秋斗が、雛里が……自分達とは違う事を選ぶと華琳は言っているのだから当然のこと。
ゆるりと、朱里の顔は血の気を失っていく。がらがらと足元の全てが崩れて行く間隔に陥っていた。彼女は思い出したのだ。洛陽で彼が何を話していたか、その時に自分が彼の事をどんな存在と評価したかを。
――秋斗さんは劉備軍の裏の王。徳では無く規律で秩序を齎して覇の道を進む人。そして雛里ちゃんは……一番近くで彼の影響を受け続けた軍師。だから『劉備軍』はもう一つ存在すると、曹操さんは言ってるんだ。
劉備軍は秋斗の発言によって真っ二つに分かれる可能性を持っていた。桃香と秋斗が対立しなかったからこそ、同じ軍として纏まっていたのだ。
それに気付いてしまった朱里の身体は震えはじめる。何故、自分はもっと彼の事を見ていなかった、彼の近くに居なかったと後悔に心を沈めて行く。
動揺にブレる朱里の目を見つめて、理解したならもう興味は無いというように華琳は目を切った。次に思考が纏まっていない桃香を真っ直ぐに見つめ、口の端を吊り上げた。
「あなたの仲間とやらを信じてみなさい。信じているのなら、あなたは徐晃への心配を抑え付け、徐晃達が入って来てからも問いかけられない限りは口を噤む事ね。大切な仲間を信じているなら出来るでしょう?」
「それはっ――」
「あなたには聞いていないのよ諸葛亮。あなたが準備した交渉の席は既に終わった。これは私が用意する交渉の席なのだから……軍師如きが口を挟むな」
華琳の提案とは言い難い思考誘導に気付いた朱里はどうにか阻止しようと口を挟むも、すっと細めた目を向けられただけで制される。
彼女はそれの経験があった。洛陽で、彼がたった一人に答えを促した時と同じモノ。圧倒的な覇気が包む天幕に誰しも嫌な汗が流れ落ちる。
本物の王と軍師では格が違うのだ。言葉を紡ぐ事が出来るのはただ一人。王として責任を全うせんと、心を高く持って進もうと決めた桃香だけであった。
ゴクリと生唾を呑み込んだ桃香は華琳を厳しく睨みつけた。
「いいですよ。ただし対価の話を曹操さんから切り出すのは無しとしてください。秋斗さんと雛里ちゃんが交渉を望むなら、私達と同じ対価を支払おうとするはずですから。もし、秋斗さん達が交渉を始めるとしても二人に任せます」
桃香は華琳の思考誘導に乗ってしまった。
仲間を信じるならと言われては乗らざるを得なかった。彼女が目指すモノ、その根幹は近しいモノから始まったがゆえに。
秋斗と雛里ならば先の交渉をなぞる、と桃香は信じていた。華琳の発言をある程度制限したのはそ
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