彼は一人、矛盾の狭間にて
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彼女達はその場へと駆けだしていた。
すぐそこで目に入ったのは黒い大きな男と魔女帽子を被った小さな女の子。その二人の前には白蓮が立っていた。
「袁紹軍の待ち伏せにあったんだ。率いていた徐晃隊は全滅、生き残ったのは俺と雛里だけだ」
「敵の数は!?」
「二万くらいでした。ただ……あちらには八割がたの被害を与え、さらに橋を落としたので此処に辿り着くのは遅れるでしょう」
唖然と、白蓮は口を開けていた。徐晃隊が全滅する事への驚愕と、短時間の逃亡戦であるのに敵軍に大打撃を与えた彼らが信じられなくて。
「秋斗さん! 雛里ちゃん!」
「大丈夫!?」
その場に駆け寄った月と詠は二人の有様を見て悲痛な表情に変わる。
ボロボロの衣服、顔は泥にまみれ、髪も乱れている。秋斗の服にはそこかしこに血がこびり付いており、顔は蒼白であった。
「よう、久しぶりだな二人共。無事で何よりだ。俺達はこうして生きてるんだから大丈夫さ」
相も変わらず飄々とした態度で月と詠の事を思いやる秋斗。彼が言った報告を聞いてしまった為に、その異質さが際立っていた。
グッと、二人の胸の内に来るのは膨大な悲哀。
自分達によくしてくれた徐晃隊が全滅。前までは兵とまで深く繋がっていなかった為に、彼らが死んでしまったというのは二人にとっても大きな痛みを齎した。
同時に、秋斗の様子がさらに異常に見えた。
全滅しても尚、普段と変わらない。あれだけ笑い合って、ふざけ合って、繋がっていたというのに。一体その心はどれほどに傷ついて来たのかと凍りつくような痛みが込み上げる。
どちらともなく、月と詠が何か尋ねようとしたのだが、誰かの駆けて来る足音が聞こえて口を噤んだ。二人が振り返って見やると秋斗がずっと会っていなかった人物が駆けてきていた。
「星……久しぶりだな」
速度を緩めて歩きに変わり、どうにかいつものように声を紡ごうとした星であったが言葉に詰まる。
何を話すか彼女なりに考えていた。きっと彼の事だろうからからかった方がいいと思っていた。だというのに……そこにいるのはボロボロに成り果てた想い人。
聡い彼女は周りに彼の部下が一人も居ない事を見て、何があったのか分かってしまった。彼も、白蓮のように部下を切り捨てたのだ、と。
弱く心が落ちて行き始める。しかし彼女は昇龍。無理やりに自身を奮い立たせ、
「クク、相も変わらずに女子といちゃついているとは……おかえりなさい、秋斗殿」
意地の悪い笑み、後に優しい笑顔で彼を迎えた。そんな友からの心遣いを間違う秋斗では無く、彼もにやりと笑い返した。
「ただいま、意地っ張りめ。俺との再会には目もくれずに槍といちゃついてたお前に言われたくはないな」
秋斗と星のやり取りを見て、詠と月は茫
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