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乱世の確率事象改変
彼は一人、矛盾の狭間にて
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く眉根を寄せた詠が居た。子供っぽい口癖を出してしまっても真剣な眼差しで月の事を見つめている。

「……どっちが行く?」

 短く問いかけられたが、月はすぐさま考えを共有出来てしまう。
 本来なら同盟が成立し、ある程度の期間がある為にその時決めようと話していたが、こうなってしまってはじっくり話し合う時間も無い。
 秋斗は一人では持たない。しかし二人共が行くわけにもいかない。彼女達にとって、雛里も支えるべき対象となっていた。

「ボクは月が無事に生きてくれることを望んでるし出来ればずっと傍に居たい。でももう間違いたくないの。だから月が自分のしたい事を選んで。親友として、家族として、月の望みを叶えたい」

 目を離さずに、少しの悲哀と後悔を乗せる詠。連合の時に自分の望みだけを優先したから、もう月の心を一番にしようと思っていた。
 静かに見つめ返す月は自身の心と向き合っていた。
 誰かの為になりたいと願うのは月にとっていつもの事。秋斗と雛里、どちらも大切になった存在で、離れたくないと感じていた。
 ただ……彼と離れるとなると寂しい想いと共に少しだけ心にもやが掛かる。それが何かは明確には分からず。
 しかし、いつもなら詠の方が頭もいいのだからと雛里を支えようとしたはずだった自分に気付き、もやが一寸だけ晴れて行く。

――そうか。私が秋斗さんを支えたいんだ。詠ちゃんの方が助けになるけど、私は自分で彼の手助けをしたいと思ってるんだ。

 王の立場は個人を薄くする。自分がどうしたいか、というのを曖昧にする事もあるのだ。一人の王であった彼女は随分前から個人が薄くなってしまっていた。
 他人から与えられたわけでなく、周りの状況でそうなったわけでなく、内から出る望みを理解した彼女はゆっくりと口を開く。

「詠ちゃんごめん。私が行きたい。何も出来ないかもしれないけど私があの人を支えたい」

 申し訳なさげながらも力強い瞳を向けられ、寂しさを瞳に宿した詠はじっと見つめ返した。
 詠にとって月は半身と言っても過言では無く、その答えが無意識に発露した感情からのモノであると理解していた。

「……そう。ならこっちは任せて。次に会う時まで、ね」
「ありがとう詠ちゃん」

 軽く返しながらも、もやもやと詠の心は曇り行く。自分の愛する者が誰かを求めたのだから当然。嬉しくもあり、哀しくもある。
 そして素直ではない彼女は気付けなかった。そのもやには月と同じモノも含まれている事に。
 二人はそのまま何も言わずに作業を続け……幾分か後に、大きな声が聴こえた。

「な、何があったんだよ秋斗!?」

 待ち人の帰還を告げるならばもっと暖かいモノが良かっただろう。白蓮の焦った声は陣内によく響いた。
 入口付近に居た為に、耳に入ると同時に
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