彼は一人、矛盾の狭間にて
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いを彼に伝えた。今は苦しめないように、後々に本当の意味を伝える事が出来るようにと。
「……そうか。ありがとう、伝えてくれて」
言葉は少なく、声は穏やか。
徐晃隊の想いを受け取った彼は少しだけ安らいだ。引き摺る想いの鎖が少しだけ緩まった。頭に響くはずの怨嗟の声が彼らのおかげで抑えられていた。
「あいつらの分まで多くの人に平穏を与えてやろう。あいつらの分まで俺達は幸せを見つけてやろう。それが俺達に出来る事だろうよ」
コクコクと、雛里は何も言わずに頷き、そして幾分かの間を置いて、
「私があなたの羽になります。そうすれば多くの幸せを探せますから」
笑顔を秋斗に向けた。多くの意味を隠して、されども本心を真っ直ぐに伝える彼女の笑顔は、何よりも彼の心に安息を齎した。
「ははっ、雛里にはほんっとに敵わないな。じゃあ俺はお前の脚になろう。羽を休めている時も、いつだって幸せを探せるように」
楽しそうに、彼も笑顔を返してくしゃりと彼女の頭を撫でた。
それからどれだけ走っただろうか。
漸く、彼らの目にぽつぽつと篝火が見え始めた。近くなるにつれて多く、はっきりとしてくるその灯りは……彼の希望の火であり、彼女の願いの火。
「月光、お前にも世話になる。いつもありがとうな。もうすぐだからあとちょっとだけ頑張ってくれ」
優しく、首を撫でながら紡がれた言葉に、月光は気にするなと小さく嘶いた。雛里も愛おしげにその首を撫でた。
まだ余裕だ、これくらい訳は無い。そう示すかのように月光はスピードを上げる。幾多の影が蠢く陣はもうすぐそこに迫っていた。
そうして、彼と彼女は……絶望の場に辿り着いた。
†
陣内の入り口付近で慌ただしく次の行動に移る手伝いをしていた月と詠の表情は暗い。同盟では無く通行許可が下りたと報告があったからである。
秋斗や雛里と分かれてから、彼女達は同盟が成功すると判断していたが、曹操はそれを容易く打ち砕いた。
報告を聞いて……何を対価にと、二人はそれぞれ考えていた。
どちらもの頭に思い浮かぶのは一人の男。曹操の思考ならば同盟であっても通行許可であっても、誰を求めるかくらいは二人も読めていた。
月は今までにない程に胸が締め付けられていた。秋斗がどんな人間であるのか、切り捨てられた先でも世界の為に動く事を理解していた。
誰にも秘密の二人だけの夜を思い出すと、どれだけ彼が苦しむのかと考えてしまう。
――私は何も出来ないのかな。一人ぼっちになってしまったら、あの人はもう持たないのに。
表情を昏く落とし、あくせくと動きながらも彼の事を考えていると、ふいにトンと背中を叩かれた。
「へうっ」
小さく声を上げて振り向くと厳し
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