彼は一人、矛盾の狭間にて
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この先信じる事が出来なくなって絶望する。
哀しみが胸を支配する中、雛里は秋斗に一つだけ聞いてみたいと思う事があった。
「秋斗さんが桃香様の立場なら何を支払いますか?」
彼が王であったならばどんな選択をするのだろうかと考えて。もし、秋斗が桃香の代わりに劉備軍を率いていたなら――“天の御使い”として一番上に立っていたならと考えて。
雛里は一つの確信に至っている。彼は『人』では無いのだと。
彼の持つ論理思考は生まれ持った才では無く積み上げられたモノだと分かるのに軍師を追い抜く事があり、倫理観や常識はこの世界の誰しもから少しズレており、膨大な知識は歪にして広大だというのに情報を探してもその根幹たる起源を探せない。
よくよく確認していけばその存在は異質。特に未来を読めるかのような先読み思考は軍師からすると逃げ出したくなるような恐ろしさがあった。
思考能力が平均より上ではあっても、積み上げるだけでは絶対に辿り着けない場所に立っている故に……軍師である彼女にとって彼は『人』では無い。その思考も行動も、人の範疇では測る事が出来ない。
しかし雛里にとっては些末事であった。化け物だろうとなんだろうと、彼が彼であればそれでいい。他の人間であれば排除しようと躍起になるだろうが、心の本質を間近で見てきた雛里は気にならず。
秋斗が誰にも自身の事を打ち明けないのはその事柄からだと理解していた。異常な存在は社会に於いて受け入れが難しい。たった一人だけの例外的存在は才の有無に関わらず拒絶される事が多く、理不尽に責められる事も、排斥される事もあるのだ。天から来た人ならざるモノであるならば、人の世に関与するなと言うモノは必ず出てくる。救国の英雄であろうと平穏な世になると胸の内から来る怯えに勝てず串刺しにするのが人であり、化け物を倒すのはいつだって人なのだ。
平穏な世に於いても受け入れられなければ世界を変えられない。最悪の事態を念頭に入れて行動する秋斗だからこそ、誰にも話さないのだと雛里は考えていた。
秋斗は質問を受け、緩慢な動作で雛里の頭に乗せていた首を上げた。
「……桃香こそが大陸の王に相応しいんだ。俺は乱世に振るわれるただの剣なんだ。だからその質問は無意味だよ、雛里」
ぎゅっと目を瞑って、雛里は胸に来る痛みに耐えた。片腕たる副長さえも切り捨てた彼はもう信じ抜かないと持たないのだと理解して。
その証拠に、秋斗の声は震えていた。万に一つの可能性であってもそのような事態にはならないと……思考から追い出すように、逃げ出すように。
「戯れです。少し……聞いてみたかっただけですから」
小さく、涙と共に零した言葉。風に流れて、秋斗の肌にその雫が落ちる。緩い吐息を吐いた秋斗はしばしの沈黙の後にゆっくりと話始めた。
「
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