彼は一人、矛盾の狭間にて
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っているだろうと信じ、きっと華琳に口を出すだろうと思っていたのだ。しかし……桃香の考えは呆気なく否定される。
数瞬の間を置き、秋斗は華琳の方を向いて頭を下げた。
「……同盟は為されなかったんですね。曹操殿が未だ此処にいるという事は他の事柄が提案されて、それを劉備様が受けたという事なのでしょう。軍自体の通行許可、といった所かとお見受けします。我らが軍を助けて下さりありがとうございます」
礼を言った後、直ぐに秋斗は桃香の前に身体を向けた。自分は桃香の部下であると示す為に一度も顔を上げずに。
「所で劉備様……何を対価に支払ったか聞かせて頂きたい。関羽ですか? 張飛ですか? 公孫賛や趙雲ですか? それとも……私でしょうか。さすがに軍師二人は無いとは思いますが……」
大きく息を呑んだのは誰であったか。天幕内の空気は張りつめて行く。交渉に参加していないというのに、まるで交渉を見ていたかのような予測、己自身でさえ対価に入ると彼が見越していた事に覇王と鳳凰以外の全ての者が驚愕に染まる。
平坦な声音で、なんのことは無いというように紡がれた言葉は桃香と愛紗の心を大きく抉った。朱里は……重ねて胸に圧しかかる絶望によって、するりと白羽扇を手から落とした。
雛里は秋斗の隣で顔を伏せていた。誰の顔も見ようともせず思考に潜り込み、覇王と大徳が次に発する言葉を幾多も予測し、どの時機で己が割り込むかと考えていた。
異様な空気を感じ取っていようとも秋斗は顔を上げず、大徳の臣たる姿を覇王に見せつけるように頭を垂れ続けていた。
劉備軍の者は誰も話す事が出来なかった。それを見て、華琳は口の端を歪めて楽しそうに小さく笑う。
「単騎でしか抜けられない程の戦を終えてきた徐晃が聞いているというのに、どうして答えてあげないのかしら?」
冷たい問いかけは桃香を追い詰めて行く。今、桃香の心はぐちゃぐちゃに乱れていた。秋斗が自分とは違い、華琳の提案を自ら肯定するとは思ってはいなかった為に。
対して秋斗は思考を回していた。
――曹操が俺の発言を肯定したのだから予測は現実となったんだろう。桃香は返答に詰まる程の対価を呑んでいる……なら俺と愛紗が妥当か。
着々と理論展開を頭に積み上げて、如何に自分一人を曹操への対価にしようかと考えていた。
そこに……絶望の答えへの予測が放たれる。敵では無く、彼の愛する者から。
「朱里ちゃん……まさかとは思うけど特定の人物での対価を無しにしたわけじゃないよね?」
瞬間、秋斗の思考は真っ白になる。信頼を置く雛里の言葉はそれだけの影響力を持っていた。思考放棄したのではなく、ただ何も考えられなくなった。
顔を上げた雛里の瞳は冷たく光り輝いていた。その場にいるのは鳳凰。彼を守る為だけにその力を使わ
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