暁 〜小説投稿サイト〜
春から秋に
第三章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第三章

「御互い頑張ろうな」
「ああ、わし等もあんたもな」
「頑張りましょう」
 こう声をかけ合いだ。彼等は今年も農業に励むのだった。
 春は苗を植え種を撒きだ。そうしたはじめのことをした。それをしているうちにだった。
 次第に暑くなりだ。梅雨が来た。
 雨が降ると外での仕事はしにくくなる。二人は家の中でだ。農具の手入れや農業に使う簡単なものを作りながらだ。外を見て話すのだった。
「今年はよく降るかな」
「天気予報ではそうですね」
 お婆さんがお爺さんに答える。今は二人で鎌を磨いている。
「雨の量は多いですよ」
「そうか。それは何よりだよ」
「それにですね」
 お婆さんはここでさらにというのだった。
「今年は暑くなるそうですよ」
「そうか。暑くなるんだな」
「あまり暑くなるとお米が悪くなりますけれど」
「それでも冷害よりはずっとましだよ」
 それがだ。農家にとっては最大の敵なのは何時でも変わらない。
「それはないんだな」
「天気予報ではそうですね」
「じゃあ信じさせてもらうか」
 そのだ。天気予報をだというのだ。
「ここは」
「そうですね。後は」
「田んぼにザリガニは出てるか?」
「いえ、出てないですよ」
 それはだ。安心していいというのだ。
「鴨も働いてくれてますし」
「鴨もいいなあ」
「最初は大丈夫かって思いましたけれど」
 所謂合鴨農法もやっているのだ。鴨に害虫やそうしたものを食べてもらってそれで農薬を使わないようにしているのだ。そして鴨は後で食べるのだ。
「いいものですね」
「全くだよ。秋になれば」
 秋のことをだ。お爺さんは今から楽しみにしている顔で話すのだった。
「鴨も食えるし」
「農薬よりずっといいですよね」
「そうだよな。それにしても」
 外は雨なので雨音が聞こえてくる。そしてだ。
 さらにだ。蛙の鳴き声もだった。聞こえてきていた。
 それも聞いてだ。お爺さんは目を細めさせてお婆さんに話す。
「雨が降ってそれで蛙の声を聞くと」
「梅雨だって思いますよね」
「蛙がいないと梅雨じゃないよ」
「それとですね」
「ああ、梅酒な」
 お爺さんの目がさらに細くなる。
「梅も漬けて梅酒も造って」
「明日それしますか?」
「明日も雨か?」
「雨になれば」
 そうなればだというのだ。明日も雨ならばだ。
「そうしましょう」
「そうだな。雨ならな」
「はい、それじゃあ」
「晴れなら外だ」
 そう言ってだ。今磨いている鎌を見てだ。お爺さんはお婆さんに話した。
「それで草を刈るか」
「新しい草刈り機も用意していますよ」
「おお、早いな」
「お爺さん草刈り好きですから」
「鎌を使うのは昔から得意だしな」
 そしてだ。草刈り機もである。

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ