アインクラッド 後編
Backside of the smile
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て左手と絡めた。彼はいつも通り無表情で、どう思っているのかは分からなかった。だから、わたしはそれを聞いてしまう前に、マサキ君とは反対を向いて粗末なベッドに横になった。すぐ後に椅子を引く音が聞こえてきて、わたしは放心しつつ目を閉じた。
「……この部屋何もないけど、わたしが寝た後は、中にある物は好きにしていいから。だから――」
――それまで、もう少しだけ、一緒に居て。
泣いたせいか、いつもより強く、急に襲ってきた睡魔に抗うことができず、続く言葉はわたしの意識と共にまどろみの中へ消えていった。
彼女が目の前で安らかな寝息を立て始めても尚、俺は彼女の手を握ったまま、古ぼけた丸椅子から立ち上がらずにいた。
視線を手元に落とす。今俺の手に収まっている彼女の白い右手は、驚くほどに小さく、華奢だった。
「……孤独、か」
自分はどうなのだろうと考えた。彼と出会う以前の、彼が死んだ後の自分は。
きっと、孤独なのだろうと思った。彼女との違いは、それを感じていないか、諦めているか、それとも必死で抗っているのかだけ。
だから、彼女のほうが、俺よりもまだまともなのだろうとも思った。
俺は彼女の手を握ったまま立ち上がると、椅子を壁の傍に移動させた。壁にもたれるようにして座り直し、隙間風の音を聞きながら目を閉じる。
涙の綺麗な人は心も綺麗なのだと、昔聞いたことがある。
彼女の流した涙は冬の澄んだ夜をそのまま映し出していて、素直に綺麗だと感じた。
自分では作り出せないものを見つけた時、人はそれを綺麗だと感じるのだ。
ゆっくりと瞼を持ち上げると、煤けた石壁を窓から入り込んだ旭光が照らしていた。アラームの設定時刻より早く目覚めたのだろう、電子音の代わりに小鳥のさえずりが耳を揺らす。このゲームに囚われて以来、初めて熟睡して迎えた朝。だというのに、わたしの心はずんと沈みこんでいた。
――これから、どうしようか。
いつものように手助けに行く気にもなれず、他に何をすればいいのかも分からない。かといって、何もせず一人で部屋にいることなど、わたしに耐えられるはずもない。
一人、という単語を思い浮かべた途端、また冷たい孤独感が胸に這い寄ってくるように思えて、わたしは身体を縮こめようとする。と、右手が何かに包まれていることに気付いた。
慌てて首を振る。
「え……?」
すると、ベッドの脇で壁にもたれながら、マサキ君がわたしの手を握ったまま眠っていた。どうしてまだこんなところにとか、ずっと手を握っていてくれたのとか、幾つもの疑問が瞬時に生まれて頭の中を駆け巡る。
と、わたしの声で起きたのか、彼は眼鏡の下で目元を擦りながら顔を上げた。それまで俯き加減だった彼の表情
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