アインクラッド 後編
Backside of the smile
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とすれば、彼らがイノシシに追い回されていたことだった。
わたしたちのパーティーは、すぐに彼らの救援に入った。敵は一頭のみだったので、囲んで全員でソードスキルを撃ち込んだ。全方位からの攻撃を受け、青イノシシはあっけなく四散した。
追われていたパーティーと合流すると、わたしたちは文字通り泣いて感謝された。まだゲームに慣れていないプレイヤーが多く、パニックを起こして雑魚相手にも苦戦、場合によっては敗北してしまうことすらあったSAO最初期では、往々にして見受けられた光景の一つ。しかしそれは、初めて見たわたしに大きな衝撃を与えると共に、一つの感覚を呼び起こした。
――今、わたしは一人じゃない。
生き延びた喜びを分かち合っている輪の中に、自分がいる。そう感じた途端、背中に纏わりついていた孤独が、ふっと剥がれ落ちたような気がした。ずっと欲していた、孤独からの逃げ方。これだ、とわたしは確信した。
その日から、わたしは他のパーティーに参加して手助けを行うようになった。昼間は幾つものパーティーに代わる代わる参加し、夜はひたすら自分のレベリング。そこで得たお金は殆どを回復アイテムに費やし、参加したパーティーのメンバーに使った。住処は今の部屋を一日五コルで借り、明け方に三十分だけ、仮眠のために戻った。とにかく誰にも嫌われたくなくて、自分を出さず、常に偽物の笑顔を振り撒いて、相手の要求はほぼ全て呑みこんだ。誰かの役に立つことで、その誰かと繋がっていたかった。
「……バカみたい」
激情に任せて全てを吐露した後、わたしは小さく息を吸い、嗤いながら吐き捨てた。悔しいことに、本物の笑いだった。
「……ずっと今まで、一人が嫌でこんな風に生きてきて、でも、やっぱり死ぬときはわたし一人だった。……でも、だったら、わたしがいままでしてきたことって、一体何だったの……? わたしがしてきたことも、作ってきた笑顔も、わたしも、全部意味が無くて、全部偽物で……だったら、本当のわたしはどこにいるの? 何がしたいの? ……もう、分かんないよ……! 誰でも、何でもいいから、教えてよ……!」
立ち尽くすマサキ君の腕を掴む右手に力が入るのと同時に、わたしは縋るような視線を彼に向けた。途端に再び零れ出した涙が目元に溜まり、マサキ君の顔が滲んだ。マサキ君から目を切って、また俯く。瞼をぎゅっと絞ると、重さに耐え切れなくなった雫が二滴、ぽたぽたと腿を濡らした。
「……ごめんなさい」
数十秒ほど泣いた後、わたしは左手で目元を拭い、再び顔を上げた。
「もう一つだけ、最後にお願いしてもいい?」
「何を」
「……わたしが寝るまででいいから、手、握ってて」
わたしは彼の腕を握り締めていた右手を緩めると、ワイシャツの袖口をなぞるように下ろし
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