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剣の丘に花は咲く 
第十一章 追憶の二重奏
第七話 前へと
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「もうそろそろだな。あと少しだ、頑張ってくれ」

 深い緑が広がるウエストウッドの森の中に、士郎たち一行が草を踏みしめる音が響く。先頭を進む士郎が背後を振り返り、息も荒く(うしろ)に続くルイズたちに声をかける。

「あ〜っ、はぁ、もうそろそろって、既に限界超えてるわよ。もう足がパンパン。やっぱりシルフィードが回復するまで待っておけばよかったわ」

 ぜいぜいと犬のように舌を出しながら息を荒げるロングビルが後悔を多分に含んだ視線を背後に向ける。もう姿かたちはとっくに見えてはいないが、視線は今頃夢でも見ているだろうシルフィードに向けられていた。ロサイスからウエストウッドの森まで休みなく飛び続けたシルフィードの疲労は極限に達しており、体力が回復したら後から追いついてくるよう指示した士郎たちは先行し、村へと向かっていたのである。

「これぐらいで弱音を吐くなんて鍛え方がなってないね。もうちょっと普段から鍛えといた方がいいんじゃないかい? 若いからって油断していたら色々と緩んじまうよ」

 士郎の直ぐ後ろを歩いていたロングビルが、息も絶えだえのキュルケの様子に鼻を鳴らして笑ってみせる。何時もならば直後に皮肉混じりの悪態を返すのであるが、ほぼ休みなく歩きどうしによる強行軍による疲労からキュルケは顔を伏せ息を荒げるだけで返事を返さない。
 そんなキュルケの様子に興味を失ったように顔を前に向けたロングビルの背に、ポツリと小さな声が投げかけられる。

「……下品ね」
「あ? 何だって?」
「若くない人は大変ねって言っただけよ」
「……へぇ」
「…………」

 何時もなら軽く流す程度の軽口でありながら、一触即発状態となるキュルケとロングビル。疲れによる苛立ちが頂点(ピーク)に来ているからだろうか? いや、そうではない。確かに不慣れな森歩きによりキュルケには疲労による苛立ちはあったが、ロングビルには歩き慣れたウエストウッドの森であるため体力的な問題はなかった。しかし、変わりに別の問題を抱えていたのだ。
 それは今回の目的である虚無の担い手……つまりティファニアの事である。
 自分の妹分であり、今までずっと隠し守ってきた存在。
 アルビオン王家の血筋であり、ハーフエルフというどれか一つでもバレてしまえば命の危険に晒されてしまう大切な(ティファニア)。だからこそ、ティファニアの気持ちを知りながらこれまでこんなところ(ウエストウッドの森)に閉じ込めていた。
 それが突然の今回の依頼。
 理由は分かる。
 必要なことであることも分かっている。
 ティファニアをハルケギニアで保護するのが現在の最善手であることも……。
 しかし、分かってはいるが納得は出来ない。
 それがただの好悪……感情によるものだと分かっている。
 だ
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