『橘』
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中の例外であるらしい自分が、それで帰る事ができるかどうかも怪しい
また、もしかしたら別の、とんでもない世界に飛ばされるかもしれないのだ
安全かつ確実な世界転移の方法を、この右も左も、一般常識さえ検討のつかない世界で探す
その、あまりに難題すぎる例題は、元は優秀な研究員として働いていた橘であっても途方にくれ てしまった。
だが、 なんとしてでも、自分は元の世界に戻らなければならない
そして、やらねばならない仕事が残っているのだ。
世界を救った男がいた
彼は自分の後輩だった
自分と違い、システムに適合するという理由だけで選ばれた男
『人を守りたいんです』
初対面の日、そんな馬鹿げた言葉を臆面もなく言い切った男
最初は、邪魔なだけだった
彼は事あるごとに自分に付きまとい、教えを乞い、
いざ、戦うとなれば闇雲に動くばかりで自分の足を引っ張った
だが、彼はボロボロになりながらも少しづつ、成長し
足手まといの後輩は、いつしか頼れる相棒に姿を変えていた
助け、助けられ
大地を肩を並べ疾走し
共に空を駆けた
そして、自分をも乗り越えていった彼は、願いを叶え、世界と友の全てを護った。
自身を、永劫の楔に繋ぐのと引き換えに
彼は今も、戦い続けている
どこかで、運命と。
「…剣崎」
彼をその運命から救いたい
その願いから始めた研究は、未だにロクな成果を出せず、時には仲間に迷惑をかけた事もあった
それでも諦める訳にはいかない
それが、仲間といいながらも結局、彼1人に全てを背負わせてしまった自分ができる先輩として
そして友としての責任だと橘は考えていた。
今、ベッドで穏やかな寝息をたてている、幼く、あどけなささえ感じる少女
…本当に、本当に情けない事だが
この世界にきたばかりの彼が信用し、頼る事ができるのは
自分を『使い魔』として召還した、 彼女しかいなかった 三度、ため息をついて右手の甲を見る
彼女の師を名乗る男が、珍しいという理由でスケッチしていったルーンがそこにはあった
こんなものを勝手に刻まれ、一生仕えろなどと言われた事を思い出せば、勿論気分のいい筈も無 く、頭にくる。 だが、召還当初のように爆発しないのは何故なのだろう それは単純に、流れた時間が状況を理解する余裕を作ったからか
無体な罵りを続ける少女が黙ったからか
それとも
『甘いんですよ橘さんは…甘すぎます』
そう自分を評した、もう1人の後輩と、どこか似たものを
自分を主と認めろと、必死に虚勢を張り続ける彼女から感じたからか。
「…馬鹿馬鹿しい」
流石に自分の思考に苦笑した
彼は確かに甘い
だが、あまりにも傲慢なこの少女に、軽々しく頭を下げられる程、彼のプライドは安くは無か
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